質問:旅に出て失ったもの

沢木耕太郎さんも三井さんも、仕事をやめて大きな旅に出ておられるんですが、そうすると、旅に出ないほうの人生と比べて、将来というか、その先の人生が大きく変わってしまいますよね?
仕事をやめてしまうわけだし。旅に出る時に、その辺のことはどう考えていましたか?
 
私は今年大学に入学して、このまま普通に大学生活を送って就職、という無難な道と、思い切って休学して長いたびに出てみたい、という思いがあります。今までは何に対しても、とりあえずやってみる!という感じだったのですが、このことにはうまく答えが出ません。でも実際にそうしている人も沢山いることを知って、今行かないと後悔するような気もします。
 
三井さんは、仕事をやめて旅に出て、失ったものは大きかったとおもいますか?
私は、どうしたら自分が後悔しないかなぁと考えてしまいます。「そんなこと自分でかんがえろよ」って感じなんですけど、どうやってふんぎりをつけたのかを聞きたいです。
 
 

三井の答え

 僕が会社を辞めて旅に出ることで失ったものはあまりないですね。安定した収入とか、リスクの少ない人生設計とか、そういうものは確かに失ったかもしれないけれど、それは僕の人生においてそれほど重要な意味を持つものではありません。
 
 反対に僕が旅で得たものは本当に貴重なものばかりです。写真を撮る楽しさを知ったこと、アジアの日常の豊かさに触れたこと、違った環境でサバイブする力・・・それはサラリーマンを続けていても絶対に手に入らなかったものです。
 
 しかし、あなたが言うように「大学生活を送って就職することが無難な道」だとは僕は思いません。それが「無難な道」であるかどうかは、その人次第です。たとえどんな道であっても、本人が「無難で平凡でつまらない」と思ってしまえばそうなるし、「挑戦しがいのある道だ」と思えばそうなるのです。
 
 逆に、「長く旅に出たら自分が変わる」というのも、一種の幻想なのです。自分を変えるのは自分自身でしかないのです。カンボジアがインドがチベットがあなたを変えてくれるわけではない。もちろん旅の経験は大きな変化のきっかけにはなるけれど、そのきっかけをどんな風に生かすのかは、あなた自身の問題なのです。
 
 僕にとって重要なのは、「旅に出た」こと自体ではなく、「長旅を自分なりに全うし、その後の人生に繋げることができた」という自信なのです。
  
 人生において何かを手に入れるためには、やはり何かを差し出さなければいけないでしょう。
 リスクの全くない人生なんてあり得ないし、仮にそんなものが存在するとして、その人生はハッピーなものでしょうか?
 
 いつ死ぬかわからないから、僕らは今を懸命に生きるわけだし、いつ失敗するかわからないから、たゆまぬ努力を続けるわけです。
 
 何かを失うことを恐れていては、何もできません。