4ヶ月に及んだインド一周の旅が終わった。120日間で16000キロを走り、7万8000枚の写真を撮った。
 
 ビハール州から終着点のオリッサ州プリーまでは一気に走り切った。4月はじめのインド内陸部は40度近くまで気温が上がるので、ただバイクで走っているだけでも体力を消耗する。朝早くに出発して、なるべく午前中に距離を稼いでおく。そして午後はソフトドリンクやマンゴージュースなんかを飲んで水分補給しながら、ぼちぼちと前に進む。
 
 ゴールのプリーにたどり着いたのは、4月1日の18時ちょうど。夕陽が西の空に落ちるのとほぼ同時だった。ハイウェーをノンストップで駆け抜け、この日だけで300キロ以上走った。疲れたけど、充実感に満ちたゴールだった。
 

 
  この4ヶ月、写真のことばかり考えていた。どこに行けばいい被写体に出会えるのか。どうすればいい光が得られるのか。24時間、寝ても覚めても写真のことが頭から離れることはなかった。心が浮き立つような楽しさもあったが、身を切られるような辛さもあった。そんな日々もこれでおしまいだ。
 インドよ、ありがとう。さようなら。
 

 
 4月5日の深夜に東京に戻った。インドの国内線とエアアジアを乗り継いで、30時間以上かけての帰国だった。飛行機のスケジュールはほぼ予定通りだったが、予想外の事態がブバネシュワールに向かうハイウェイで起こった。路上で乗用車とバイクが正面衝突する事故が起こり、そのせいで大渋滞が発生していたのだ。僕が乗っていたローカルバスもいつ出発できるかわからないという状況だったので、渋滞の先頭までてくてく歩いて行って、その先で別のバスを捕まえることにした。それが何とかうまく行ったので事なきを得たが、飛行機に乗り遅れてしまうかもという焦りは心臓に悪かった。
 

ハイウェイ上でバイクと衝突した車
 
 事故車と衝突したバイクは、中央分離帯にはね飛ばされて、大破していた。運転手の命はおそらく助からないだろう。インドでは交通事故は決して珍しくない。交通ルールを遵守する善良なドライバーは少なく、自分勝手でせっかちな大型車両が跋扈しているからだ。僕がどこかの道ではね飛ばされていた可能性だってあった。まずは1万6000キロを無事故で走りきれたことに感謝しなければいけないだろう。旅の女神様に。
 

コルカタの空港は超モダンな建物にリニューアルされた。全然インドっぽくない空間だ。
 
 日本に戻った直後は「インドってどうだった?」と聞かれることが多いけれど、「うん、良かったよ」としか答えられない。
 何がどう具体的に良かったのか、それはこれからじっくり考えよう。
 今ただ「インドはやっぱりいい」としか言えないのだ。
 


 
 写真家にとって一番大切なのは、この世界のために流す涙だと思う。美しく切ない、この世界のために。
 

 レンガをひとつひとつ積み上げていくように、毎日を丁寧に生きよう。
 ひとつのレンガは小さくても、それが何千何万と集まれば、きっと大きな建物になるはずだから。