12月13日から、インドを一周する長旅がはじまった。
 今回はエアアジアという航空会社を使ってインドのカルカッタまで行った。片道切符で約3万5000円。これが今のところ(キャンペーンなどを除いて)最も安くインドへアクセスする方法だと思う。
 
 エアアジアはLCCと呼ばれる格安航空会社のひとつで、最近になって羽田・クアラルンプール間、関空・クアラルンプール間の定期便を飛ばし始めた。エアアジアはマレーシアの航空会社。これによってクアラルンプールを起点にアジア各地に安く飛ぶルートが日本にも開かれたわけだ。
 
 エアアジアの特徴は経費を徹底的に削って、そのぶんを運賃に反映していること。
 チケットの予約、支払いとも基本的にネットで行う。予約時期が早ければ早いほど、運賃が安くなるシステムだ。運賃はいつでもネットで確認できるし、燃油サーチャージや税金などを含んでいるから、とてもわかりやすい(航空券代は2万円だけど諸経費込みで5万円になります、なんて詐欺みたいな料金システムではないわけだ)。
 
 機内サービスは全て有料。食事も飲み物もお金を払わなければ一切出てこない。預け入れ荷物にも追加料金が必要。座席にテレビもない。この辺の割りきり方は「飛行機なんて特別なもんじゃないよ。バスや列車にはサービスランチなんて出てこないでしょ」と言っているみたいで、僕としては大変好感が持てる。飛行機もずいぶん「民主化」したものだなぁと思う。
 
 僕のように長い期間旅をする人間にとってありがたいのは、片道切符が安く買える点だ。日本の航空会社は長年の慣行で片道切符を売りたがらないし、売っていたとしても短期有効の往復切符の方が安かったりしてあまり使えない。有効期間が数ヶ月のオープンチケットはがっかりするほど高い。
 
 というわけでこれまでは格安往復航空券を買って復路を破棄していたわけだが、片道切符を安く買えるエアアジアではそういう無駄なことをしなくて済む。しかしエアアジアでは往復で買っても安くはならないので、短期で往復する人にとってはメリットが少なくなるだろう。
 
 今回、僕は羽田からクアラルンプール(KL)に飛び、そこからカルカッタへと飛んだ。問題はフライトが毎日ではないので、KLで一泊する必要があったことだ。正直言ってマレーシアにもKLにも興味はなかったのだが、今後エアアジアを使う機会が増えると、KLを旅の拠点に使うことにもなるだろう。それだったら試しにKLを歩き回ってみるのもいいだろうと思って、半日KLの中心街を歩き回ってみた。
 
 しかし予想通りというか、予想以上というべきか、KLは大都会であり、モダンでのっぺりとした高層ビルが建ち並ぶ典型的なアジアの首都であった。チャイナタウンの猥雑さも期待以下だったし、インド人街の活気も限定的だった。残念ながらKLには僕の興味をかき立てるものはほとんどなかった。
 

 しかしいずれにしても、エアアジアの登場で安くアジアにアクセスする選択肢が増えたのは間違いない。
 
 バックパッカーにとっては朗報だ。これまではバンコクに飛んで、カオサン通りで格安チケットを買ってアジア各地へ飛ぶ、というのがバックパッカーの定番スタイルだったけれど、LCCの日本上陸でそれも変わることになりそうだ。しばらくはバンコクの比較優位性は続くだろうが、今後はそうもいかなくなるのではないか。
 
 エアアジアのスローガンは「Now Everyone Can Fly」。これまで先進国に住む人や、一部のお金持ちの特権であった海外旅行を、広く皆さんに味わってもらいましょうという主旨だ。もちろん「Everyone」に含まれない人がまだ大勢いるのは事実だ。インドの庶民の大半は飛行機なんてものに乗ることなく生涯を終える。
 
 けれど、成長を続けるアジア諸国の中流層が今後も一定のペースで増え続けることを考えると、エアアジアが顧客と見込む「Eveyone」がさらに分厚くなるのは間違いない。
 
 ちなみに今回はインド鉄道の予約もネットで行った。日本にいながらにして簡単にチケットが手に入るなんて夢のようだ。もう駅の予約窓口の長蛇の列とも、超不親切な係員とのやりとりとも、2時間も並んで席をゲットできなかったときの落胆とも、すべてサヨナラだ。
 
 ネットを使ってスムーズにスマートにしかも安く旅をデザインできる。それが「なんか味気ないなぁ」と思う人もいるかもしれないが、僕は大いに歓迎したい。ネットにできることはなるべくネットに代行してもらえばいい。そして僕らはネットでは絶対に経験できないことに集中すればいいのだ。
 
 さぁ、いよいよこれからインドの旅の日々が始まる。
 
 


川で水くみをしていた女の子がトライした見事なジャンプ。
 

チャティスガル州に住む部族民(アディワシ)の女たちが、洗濯を終えたばかりのサリーを、風にさらして乾かしていた。これが日常の風景とはとても信じられないほど美しかった。
 

オリッサ州の山岳地帯に住む少数部族の女性。井戸水を入れた水瓶を頭に載せて家まで運ぶのが日課だ。
表情も光も完璧だった。こういう美しい人にいつどこで出会えるかは全くわからない。だから僕はインドの村を歩く。素敵な偶然に巡り会うために。
 

オリッサ州で稲の収穫をしていた少数部族の女性。黄金色に輝く田んぼで、いい笑顔を向けてくれた。
 

収穫した籾殻に風を送ってゴミを吹き飛ばしているところ。力感がみなぎっていた。
 

少数部族ポロジャ族の村で出会った少女。はちきれんばかりの笑顔だった
 


オリッサの女性たちの収穫作業の様子。稲穂を一束ずつ手刈りしていきます
 

夕闇が迫る中、放牧していた牛を追って歩く男。何十頭もの牛が立てる砂埃が、印象的な光を作り出してくれた。
 

信じられないほど美しい夕日を目撃する。滑らかな湖が真っ赤に、本当に真っ赤に染まる。わずか10分間、自然からのプレゼントを受け取る。