インド北部ラダック地方にあるパンゴンツォはまさに絶景だった。標高4200mにある湖面は、鏡のように空と雲と山並みをそのまま反射していた。南米ボリビアにあるウユニ塩湖にも引けを取らない美しい湖面だ。

 レーの町からひどい悪路を6〜7時間走らないとたどり着けないような僻地にあるにもかかわらず、パンゴンツォに多くのインド人観光客が集まるのは、大ヒットした映画「きっと、うまくいく」のロケ地になったから。湖のほとりには観光用のヤクや馬がいたり、記念撮影用の民族衣装を貸し出す業者がいたりと賑やかだ。

 

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 パンゴンツォへいたる道は、基本的に人がほとんど住まない荒涼とした山岳地帯だが、ときどき人や動物の姿を見かけることもあった。山羊や馬やヤクなどの家畜が、わずかに生えた草を食べながらゆったりと移動する。急ぐものは誰もいない。酸素が薄く、少し走っただけでも息が切れる高地では、人も動物もスローペースで生きている。

 

india18-88662インド北部ラダック地方の山岳地帯で出会った山羊飼いの男。生後2週間の子山羊を膝に載せて、200頭あまりの山羊の群れを見守っていた。有名なパシュミナ織りは、この地方で飼われている山羊の首まわりの毛だけを使った希少価値の高い毛織物だ。

 

india18-83813インド北部ラダック地方の自然は雄大だ。草木もまばらにしか生えない標高4800mの地で、黒い毛に覆われたゾがのっそりと歩いていた。ゾはヤクと牛とをかけ合わせた雑種で、力が強く、使役用の家畜としてラダック地方でよく飼われている。

 

india18-88685インド北部ラダック地方の山岳地帯を歩くヤクの群れ。ヤクは牧民によって家畜化され、ヤクの乳から作ったバターはチベット民族の伝統飲料・バター茶(グルグル・チャ)を作る際に欠かせないものだ。

 

india18-90093ラダック地方にある標高5000mを超える峠道、カルドゥンラ、チャンラ、タグランラを三つとも制覇した。おかげで標高3500mのレーに「降りる」と、呼吸が楽に感じられるようになった。高地トレーニングみたいなものか。たぶんラダック人の心肺機能は半端ないんだろうな。

 

india18-84239山に登ることにも、山を撮ることにも、あまり興味がなかった。優れた自然写真家はたくさんいるし、あえて僕が撮る必要はないと思っていた。でも、ラダックで圧倒的な大自然を目の前にすると、山にカメラを向けたくなった。山が「撮れ」と言っている。その声に素直に従うことにしたのだ。

 

india18-86061山はもちろん動いたり笑ったりしないので、「表情」を作るのが難しい。でも光が違ったり、見る角度が変わったりすると、その変化はやはり写真に写る。山にもちゃんと表情があるんだ。それに気が付くことができたのが、今回のラダック旅の一番の収穫かもしれない。

 

india18-85691ラダックを訪れる人はぜひ超広角レンズを持って行って欲しい。今回の旅では16-35mmの出番が多い。雄大な景色と、青い空、白い雲。ここにしかない荒々しい自然(と国境警備のために派遣されている大量の軍用車)を撮るためには超広角レンズがふさわしい。

 

india18-88320ラダック地方は晴天率が高く、インドの平地が雨季の7月でも8割の日が晴れだと聞いていた。でも今年は少し様子が違うようだ。特に7月下旬になると青空が滅多に見られなくなり、ときどき雨も降った。風景写真には厳しい条件だったが、分厚い雲がダイナミックな自然を表現する場面を狙うことにした。