少女は窓の外から授業の様子を見つめていた。仲間外れになっているとか、罰を受けているわけではなく、自らの意志で教室に入らないのだ。本当は学校に通いたいのだけれど、何らかの事情で通えないのかもしれない。教科書やノートを買う余裕のない家庭も、カンボジアには数多くある。
少女が覗き込んでいたのは分数の足し算の授業だったが、その内容を理解しているのかはわからなかった。唇を真一文字に結び、壁にもたれかかったままの姿勢で、じっと黒板を見つめている。彼女のそんな横顔には、静かに心を打つものがあった。
僕は少女にカメラを向けた。シャッター音に気が付いた少女が、不思議そうな顔で僕の方を向いた。僕が彼女に微笑みかけると、真一文字に結んだ彼女の口元に笑顔のカケラのようなものが浮かんだ。
しかし、僕らが交わすことができたコミュニケーションはそれだけだった。彼女が教室に入らない理由は、結局最後までわからなかった。
終業を告げる鐘が鳴り、生徒たちが教室から出てくる前に、彼女は学校から姿を消した。