モロッコの山岳地帯を旅している間、いくつかの印象的な音を耳にした。頭上に広がる青空と同じように、山に響く音もまたとても澄み切っていた。そこではひとつひとつの音が、日常のノイズに紛れることなくとてもクリアーに耳に届くのだった。
僕らが大きな峡谷の底を歩いているときに聞こえてきたのは、女達の歌声だった。それは山奥から集めてきた薪を村まで持ち帰る女達の列だった。7人の女の背中には、針葉樹の枝がどっさりと載せられていた。雨が少なく樹木もわずかしか生えていないこの地方では、燃料用の薪の確保は丸一日がかりの重労働なのだという。そしてそれは若い女達の仕事なのである。