スリランカ東岸にあるトリンコマリーという町に住む仕立て屋の男と話をした。彼の店は津波の被害を受けて、4台あったミシンのうち、使い物になるのは1台のみという状態だという。それでも仕事が続けられるだけラッキーだったよ、と彼は言った。
彼の左腕に残る火傷の痕が気になったので、「どうしたんだ?」と訊ねてみた。
「俺の恋人がツナミで死んでしまったんだ」と彼は言った。「悲しくて、痛くて、涙が止まらなかった。だから火のついたタバコをここに押しつけたんだ」
「火のついたタバコを?」
「ああ。馬鹿馬鹿しい事だってあんたは思うかもしれない。でもそうしないわけにはいかなかったんだ」
彼はそう言うと、その痛みを確かめるように傷跡を右手で触った。
三つ並んだ火傷の痕は、彼が一度ならず二度三度と火傷の痛みに耐えたという事を意味している。彼は心の内にある痛みを、肉体の傷として刻み込みたかったのだろう。
しかし彼の本当の痛みの鋭さや、傷の深さは僕には到底知り得ない事だった。だから僕は彼に何の言葉もかけることができなかった。三つ並んだ薄桃色の火傷の痕を、ただ黙って見つめるばかりだった。