ラギという港町では、「足漕ぎボート」が港を行き交っていた。
普通の手漕ぎ式ボートのオールを足の裏で握り、自転車を漕ぐような要領でクルクルと回転させながら進むのである。
ふざけているわけでも横着をしているわけではなく、このあたりの人はみんなこのやり方でボートを漕いでいるのだ。手よりも足の方が楽なのだろうか。
漕ぎ手はチャンという名前の18歳の女の子だった。彼女は上体を少し斜めに反らせた格好でオールを足で踏みつけながら、ゆっくりとボートを進めていった。
漁船の立てる大きな波を巧みに避け、左右から迫ってくる他のボートと一定の距離を保ちながら慎重にボートを操る姿は、道を知り尽くしたベテラン運転手のようだった。
おそらく学校を卒業してからずっとこうして働いているのだろう。