旅行記2005「ネパール後編、インドネシア編、ラオス編」は、「たびそらCD-ROM2005」でのみご覧いただけます。
 ここでは、CD-ROMの内容の一部をダイジェストでご紹介します。




11歳になったサリタはより女の子らしくなっていた。
 サリタに会うのは、これで三度目だった。
 最初に出会ったとき、彼女はまだ6歳だった。腕に幼い弟を抱きかかえて、柱の影からこちらの様子を窺っていた。僕と目が合うと、彼女は恥ずかしそうに顔を少しだけ背けたが、笑いかけると安心したように頬を緩めた。髪の毛はパサパサで、鼻水を垂らしたあとが白く残っていた。どこにでもいる、ごく普通の田舎の娘だった。でも彼女の瞳にははっと息を飲むほどの輝きがあった。ただ可愛らしいというだけではなく、そこには凛とした気高さが宿っていた。

 僕は名前も知らないその少女の笑顔の輝きに惹かれて、写真を撮った。その写真が僕にとって最初の写真集の表紙を飾ることになるとは、そのときには夢にも思わなかった。

 その出会いから3年後に、再び彼女の村を訪れたとき、サリタは大きく変わっていた。「無邪気で奔放な女の子」という印象から一変して、「控え目でシャイなお姉さん」になっていた。もちろん可愛らしい少女であることは変わらないのだが、かつて目撃したような圧倒的な輝きは見出せなかった。

 それから1年半。11歳になったサリタは、また一歩大人に近づいていた。男の子みたいにさっぱりと短く切り揃えられていた髪の毛が肩まで伸びていたので、前に会ったときよりもずっと女の子らしく見えた。
「その髪型、よく似合っているね」
 僕がそう言うと、サリタははにかみを浮かべて下を向いた。そして「私は短い髪の方が好きなんだけど」と言った。本当は切りたいのだけど、切ってもらうお金もないからそのままにしているのだという。

――ネパール編 Chapter.3-1 「サリタの現実」より




津波被災地の復興現場には笑顔が溢れていた。
 彼らは家の敷地から瓦礫を運び出し、用水路を塞いでいる倒木を取り除き、壊れたモスクを補修し、仕事を再開しなくてはいけない。片付けなければいけないことが山のようにあるから、過去を振り返ってため息をついている暇なんてないのだ。そうやって自分たちにできることをひとつひとつこなしていけば、最悪だった状況は少しずつ良くなっていく。そのような復興への確かな手応えを感じているからこそ、人々は笑顔でいられるのではないかと思う。前を向いて働く人々が見ているのは、未来への希望なのだ。

 幸か不幸か、アチェの復興には重機がほとんど使われておらず、作業の大半は人手に頼らなくてはいけないから、日常生活の回復には長い時間がかかるだろう。しかしその一方で、人々が自分の手と足を使い、汗を流して働くことは、彼らが津波による精神的なダメージから立ち直る手がかりになっているように思う。

 人間にはどんな境遇にあっても明るく逞しく生きていく力が備わっている。深い悲しみの中に喜びの種を見出すことができる。アチェの人々が僕に教えてくれたのは、そんなシンプルな事実だった。

――インドネシア編 Chapter.3-2 「世界一の笑顔」より






 ビエントンからナムヌーンへ向かう道は、ラオスの国道1号線沿いの旅の最後を飾るのに相応しい(?)悲惨なものだった。

 僕はこの道に「ゼブラロード」という名前を勝手に付けた。舗装された黒い道と、舗装の剥げた白い道がほぼ等間隔で続いていたからだ。これはたぶん雨季の激しいスコールによって流された土砂が、アスファルトも一緒に押し流してしまった結果生まれたのだと思われる。荒れた道を定期的に補修するような余裕は、ラオス政府にはないのである。

 そんな悪夢のようなゼブラロードを抜け、ムアンカムという町に着いたのは、出発から7時間後の午後1時過ぎだった。

 早朝からずっと何も食べていなかったので、とりあえず腹ごしらえをしようとバスターミナルの横にある食堂に入った。北ラオスでは旅行者が満足に食事を取れるような食堂が少なかった。地元民には外食をするような余裕も習慣もないので、麺料理のフーを出す店があればいい方だったのだ。

 ところが、この食堂にはフーがないという。「それじゃ何があるの?」と身振りで訊ねると、おばさんはテーブルの上に置かれた大きな鍋の蓋を開けた。そこには骨付き肉の煮込みが、どっさりと入っていた。

「ひとつ食べてみなよ」
 おばさんが渡してくれた肉に、僕は遠慮なくかぶりついた。肉は少し硬かったが、味は悪くなかった。おそらくは肉の臭みを消すために、ネギや生姜などと一緒に長い時間煮込んであるので、かなりスパイシーだった。

「これ、何の肉? 牛肉?」
 僕はガイドブックの最後に載っているフレーズ集を使って、おばさんに訊ねてみた。おばさんは首を振った。牛肉でもないし、豚肉でも鶏肉でもないという。
「じゃあ何の肉なのさ?」
 僕がもう一度訊くと、おばさんはテーブルの下を指さした。

――ラオス編 Chapter.3-1 「ラオスで食べたもの」より





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 このCD-ROMには、WEBでは未公開の旅行記(ネパール編の後編、ラオス編、インドネシア編)が入っています。
 また、スライドショーを楽しんでいただける高画質の写真も満載されています。

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