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サラエボの郊外にはボスニア・ヘルツェゴビナ内戦の傷跡が生々しく残っていた。
かつては老人ホームだったという派手な色の建物も、壁が崩れ去ったままの無惨な姿を晒していた。しかし驚いたのは、その屋根も壁もない元老人ホームに、ちゃんと人が住んでいるということだった。と言っても現在の住人は戦災前から住んでいた人ではなく、物乞いや廃品回収を生業とするロマ達である。
彼らはまるで吉本新喜劇の舞台セットのような開けっぴろげ状態の部屋の中で、ソファに座ってコーヒーを飲み、野良犬なのか飼い犬なのかよくわからない大型犬と一緒に暮らしていた。
廃墟の2階に住む男が唖然としている僕に向かって、「どうだい、グッド・ハウスだろう?」と大声で言った。
「雨が降ったらどうするんです?」僕は身振りを交えて聞いてみた。
「このままに決まってるじゃないか!」男は両手を広げて天を仰いでみせた。 |
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