約1ヶ月に渡るモロッコ旅行を通じて、僕が最も苦労したのが女性を撮ることだった。イスラム圏の女性を撮るのはいつでも困難なものだけれど、モロッコほどガードの堅い国はそうあるものではない。この国に匹敵するのは、僕の知る限りアフガニスタンぐらいである。

 人々が写真撮影を拒絶するのには、様々な理由があるようだった。「既婚女性は夫以外の男性にむやみに顔を見せてはいけない」というムスリムの習慣や、先住民族ベルベル人が信じている言い伝え、政治的な理由などである。例えば、アトラス山脈に住む羊飼いの間には、「写真を撮られた羊はすぐに死んでしまう」という言い伝えがあるという。女性に限らず男性も、そして羊さえも写真撮影には神経質な土地柄なのである。

Atlas Mountains, Morocco ( 2005/03)