磨かれない宝石 (バングラデシュ 2001)
 ダッカには「ボスティ」と呼ばれる広大なスラム街が広がっていた。ボスティはバングラデシュの中でも最も貧しい人々が集まる場所だった。住民は風雨をしのげるかどうかも怪しいようなあばら屋に住み、独特の異臭が漂う中で暮らしていた。道端には飢えのために下腹がぽっこりと張った物乞いの子供や、ゴミ箱を漁ってバナナの皮や発泡スチロールを口に入れようとする少年がいた。様々な障害を持った人々が、それをさらけ出すことで日銭を稼ぐ姿もあった。

 しかしボスティにあるのは、貧しさや暗さだけではなかった。僕はそこで、思わず足を止めてしまうほど美しい少女に出会った。彼女は汗と埃で汚れたシャツを着て、共同の井戸から水を汲んでいた。背筋をぴんと伸ばし、両腕に力を込めて、ぐいぐいとポンプを動かしていた。それは街のどこでも見られる光景なのに、彼女の身のこなしには特別な美しさがあった。力強く、それでいて優雅だった。全身から生きる力がみなぎっていた。
 僕は迷うことなく少女にカメラを向けた。たぶん顔を背けられるだろうと思いながらファインダーを覗くと、彼女がはにかむのが見えた。胸の奥が震えるような、眩しい笑顔だった。たとえ磨かれていなくとも、自ずと輝く宝石があるとすれば、それは彼女のことだと思った。