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■ 旅の質問箱「一人旅を嫌がる彼氏」
こんにちは。いつも「たびそら」を楽しみにしている***と申します。 三井さんの写真にはいつも感動させられっぱなしです。
さて、今回は質問というか悩みというか・・・ 私は一人旅が好きなんです。でもそんなに旅慣れてはいません。そして今、ミャンマーに行くことを計画しています。が、しかしお付き合いしている人が良い顔をしないのです。 お互い真剣に付き合っていて結婚も考えていますが、それならなおさら「結婚する前に・・・」とか「子供が出来る前に・・・」と私は考えるのですが、彼にとってはやはり女の子の一人旅は危ないと思っているらしく・・・ 確かに私が以前の一人旅で危なっかしいことをしていることを知っているので、心配なんだと思います。 「一人じゃなくて二人で行こうよ」とも言われますが、それとこれとは違うのよー!と・・・ とっても優しい彼でそれ以外はあまり嫌なこともないのですが、今はちょっぴり窮屈なんです・・・ どうしたら一人旅、納得してくれますかね? この話になるといつもはぐらかされちゃうんですよ・・・
何だか質問というより悩み相談になってしまいましたね(笑) すみません(^^;
■ 三井の答え
一人旅をするのに、ミャンマーほどうってつけの国はないだろうと思います。人々はとても親切だし、治安も大変にいい。旅行者が危ない目に遭ったという話は、ほとんど耳にしたことがありません。その点では、彼が心配する必要はまったくありません。 しかし問題はあなたが「ミャンマーに行く」ことではなくて、「馴染みの薄い国を一人で旅する」ということなんですよね。彼にとっては、ミャンマーだろうが、コロンビアだろうが、アフガニスタンだろうが、似たようなものなのです。だから「ミャンマーはすごく安全だから」と説明しても、納得してもらえないんじゃないかと思います。
彼の「一人じゃなくて二人で行こうよ」という意見は全くの正論ですね。優しい恋人がいるのなら一緒に旅行すればいい。二人一緒に黄金に輝くシュエダゴン・パゴダに参拝し、一緒にバガン遺跡に落ちる夕焼けを眺めればいい。その方がずっとまともだし、楽しい思い出になりますよ。 でも、あなたは「それは嫌だ。一人旅がいい」というわけです。あなたが一人旅を好む理由はメールに書かれていないので、推測するしかないのですが、おそらくあなたの中には「知らない町を自分の足で自由に歩き、そこで感じたものを自分一人の中に収めておきたい」という願望があるんだと思います。自由への渇望というか、束縛への反抗というか、少々の危険を顧みない好奇心というか。そういうものを、ご自身が自覚している以上にお持ちなんじゃないですか。 きっと彼はそのことに気が付いているのです。だからこそ、あなたの一人旅を止めたいのです。彼が本当に恐れているのは、あなたが旅のトラブルに巻き込まれることではなくて、あなたが一人で知らない世界にどんどん踏み込んでいくことなのかもしれません。彼がタッチすることのできない世界を、あなたが一人で作ってしまうことなのかもしれません。 そしてもしそうだとしたら、この問題の解決は厄介です。なぜなら、二人のベーシックな関係性が問われることになりかねないからです。「俺と一人旅とどっちを取るんだ?」なんて言われたらどうしますか? 困ってしまいますね。
いずれにしても、この問題について一度じっくりと話し合ってみた方がいいと思います。どうしてあなたが一人で旅することを求めているのか。どうして彼が一人旅を止めたいのか。 それはひょっとしたら二人の価値観の根本的な対立にまで発展するかもしれません。旅に対する考え方の違いは、往々にして人生観や恋愛観の違いを反映するものだからです。 それでもお互いの相違点を見て見ぬふりをして長い時を過ごすよりは、きちんと向かい合って話した方がいい結果が生まれるんじゃないかと僕は思います。
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■ 旅の質問箱「笑顔の撮り方」
いつも楽しく拝見しています。 三井さんに何でも質問可とのことですので、撮影時のコンタクト方法についてお聞きします。
私も旅行中に人の写真を撮りたいことがよくありますが、ファインダーを覗いてカメラを向けると嫌われることが多いので、首からぶら下げたカメラでノーファインダーで撮影するか、遠方から望遠で気づかれないように撮影する程度です。 外国では言葉の問題もありますが、国内でも言葉をかけるとシグサが変わったり、表情が硬くなったり、断られたりします。 三井さんのような自然なにこやかな顔を撮るにはどうすればよいのですか。
■ 三井の答え
僕は基本的に被写体になる人に隠れてこっそりと撮るということはしません。その人のたたずまいがそれだけでパーフェクトで、何も言わずさっと撮った方がいいという場合は別ですけれど、それ以外は相手にその意志を伝えます。望遠レンズも持っていないので(今回の旅では、全て24-70mmという標準ズームレンズで撮影しました)、遠くから横顔を撮るということもほとんどやりません。 といっても、いちいち「写真を撮ってもいいですか?」と訊ねて、相手に許可を求めているわけではありません。その部分だけ片言の現地語を覚えて使ったっていいのだけれど、そういうまどろっこしいことをするよりも、目線が合って笑顔が交わせれば、ああ撮っても大丈夫だなということがわかりますから。
僕はカメラをコミュニケーションの手段に使っています。僕は現地語を話せないけれど、その代わりにカメラを向けてシャッターを切ることで、「あなたはすごく美しくて、とても輝いている」ということを相手に伝えているわけです。 もちろん、常にいい反応が返ってくるとは限りません。むしろ僕が写真集やホームページで公開しているような自然な笑みを返してくれる人は、ごく少数だと言った方がいいと思います。見知らぬ人間にカメラを向けられて、緊張して固くなるのは当然のことです。あるいは反対に、カメラの前でテンションが上がりすぎてしまう人も多い(子供なんかは特にそうですね)。 だけどごく稀に、ナチュラルな表情を向けてくれる人に出会うことがあるのです。その機会――それはまさに「僥倖」と言ってもいいかもしれません――を得るために、僕はできるだけ多くの道を歩き、できるだけ多くの人と出会おうとしているのです。
自分との呼吸が上手く合う相手を探し出すこと。そして「僕はあなたのその表情が好きなんだ」と伝えること。それができれば、結果としていい写真が生まれるのではないか。僕はそのように考えています。
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■ 旅の質問箱「健康維持について」
三井さんは旅道中で何か健康維持(?)のためにしていることはありますか? 旅の免疫も国と国の間では変化があって大変ではないですか?
■ 三井の答え
旅人も健康第一です。肉体的に疲れていると精神的にも旅を続けるのが困難になるものです。健全な好奇心は健全な体にしか宿らないものなのですね。 さて、健康を維持するための方法ですが、僕は「よく食べ、よく寝る」ということ以外、これといって実践していることはありません。体調が悪くなりかけているなというサインを感じたら、無理をせずに休むことも重要ですね。当たり前で恐縮ですが。
僕はもっぱら暑い国を旅しているので、暑さで参るということはあまりありません。それよりも注意しているのはエアコンによる「寒さ」です。僕は元来エアコンというものが嫌いで、宿でもエアコンルームを避けてファンルームに泊まるようにしているのですが、それは値段の違いもさることながら、エアコンをつけて眠ることで体がおかしくなることを避けるという目的もあるのです。 何しろアジアの安宿のエアコンは安物か旧式かのどちらかなので、温度設定によって室温を一定に保つなんてことができない。しかもエアコンルームというのは窓が開かない構造になっている場合が多いので、エアコンを切れば暑いし、入れれば寒くなるという誠に理不尽な状況に追い込まれてしまうのです。 その点ファンルームはいい。暑ければ、窓を開けて扇風機を回せばいいんだから。それでも暑くて眠れないということは、赤道直下の国でもほとんどないのです。
エアコンによる寒さを警戒しなければいけないのは、宿だけではありません。長距離バス、とりわけ夜行バスに乗るときにも十分に注意が必要です。 先日フィリピンを旅していたときにも、エアコンバスのクレイジーな寒さに悩まされました。アジアでエアコン付きの夜行バスに乗る際には、しっかりと防寒をしておくという鉄則にしたがって、できる限りの防寒着を準備してはいたのです。外はTシャツと短パンでも汗をかくぐらいのところを、長袖のシャツに加えてウィンドブレーカーも持ち込んでいたのです。しかしそれでも寒かった。冷気が体に染み入るように寒かった。 夜の11時半までは、エアコンはマイルドだったのです。「なんだ。フィリピンのエアコンバスもたいしたことないな」などと考えていたわけです(たいしたことない、という表現もかなり変だけど)。ところが11時半を回って、バスの中が真っ暗になって、乗客が静かに眠りにつき始めた頃に、「シュー」という不穏な音がエアコンの吹き出し口から漏れ始めたのです。まるでホラー映画の効果音のように。そう、いよいよ始まったのです。エアコンバスの洗礼が。 それからバスが到着するまでの5時間あまり、エアコンは容赦なく車内を冷やし続けました。そのあいだフィリピン人の乗客も僕と同じような格好で寒さに耐えているし、運転手当人も長袖のシャツにベストみたいなものを着込んでいるのです。みんなが寒いと思っている。エアコンが効きすぎていると考えている。それなのに誰もそれについて文句を言わない。あるいは文句を言ったところでエアコンは止まらない構造になっている。 変だ。絶対に変だ。とは思うのだけど、しかしこれがアジアの夜行バスなのです。どうしようもないのです。誰も得をしないのに、しかしエアコンのスイッチは切れないのです。よくわからない理由によって。初めての旅で体験したタイの冷凍バスを思い出してしまいました。あれもひどかった。
とまぁ長々と書きましたが、とにかくエアコンには注意された方がいいと思います。
人間には発汗による体温調整機能があります。暑い国ではそれをフルに使ったほうが健康のためにはいいのではないか、というのが僕の意見です。
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■ 旅の質問箱「パスポートの管理」
パスポートはいつもどのように、持ってますか? 田舎暮らしからか、普段、鍵をかけたり、貴重品の保管というものに慣れていません。 でも旅先では、さすがにこのままじゃ。。。と思っています。 "一人旅に出るの"と家族や友人に話すと、"アジアは治安悪いし、危ないよ。パスポート、お金取られたらどうするの"と。。。。みんなあまりいい反応はしてくれません。 でも私には、三井さんの写真のアジアの素敵な瞳が与えるアジアに対するイメージが強くて、そんなお金取るような悪い人ばっかりじゃないから大丈夫だよ。と確信しています。
■ 三井の答え
パスポートや現金などの貴重品の管理は、確かに気を遣う問題のひとつですね。パスポートは一応常に身に付けておいた方がいいでしょう。トラベルグッズ売り場などには、キャッシュベルトやズボンの中に入れるタイプの隠しポケットなどが売っているので、そういうものを買っておけば、ひとまず安心です。 でも一昔前のように「パスポートは命の次に大切だ」とまで思い込む必要はありません。大使館に行けば、多少時間はかかるかもしれないけれど再発行してくれるんだから、現金をごっそり盗まれたり、怪我をさせられたりするよりは、パスポートをなくす方がずっとマシです。
僕は貴重品の管理に関しては、比較的ルーズな方だと思います。パソコンやカメラなども平気で宿に置いてきてしまいます。「宿を信用しなければ、いったい誰を信用すればいいのか」というのが僕の危機管理におけるひとつの哲学になっているのです。それでも2年に及ぶ旅の経験の中で、ものを盗まれたことは一度しかありません。それもインドの子供がふざけて盗ったものでした。 今一緒に旅をしているアメリカ人のウィリアムには、「それは運がいいだけだよ」と言われます。彼はロサンゼルスの治安の悪い地区で生まれ育ったので、まず最悪のケースを考えることに慣れているのです。だから僕が何でも部屋に置いてきちゃうことが気に入らないのです。
僕の経験を通して言うなら、アジアの治安は悪くはありません。もちろん最低限の注意は払わなくちゃいけないけれど、必要以上に恐れることはありません。だから、あなたのお友達や家族が言う「アジアは治安が悪い」という意見には、僕は同意できません。 たぶん「アジアは治安が悪い」というイメージは、メディアを通して得た情報を元に作られたものなのだと思います。しかし、こうした二次三次情報はあまり信用しない方がいい。その格好の例が、僕がフィリピンを旅している間に起きた「非常事態宣言」でしょう。これは日本でも比較的大きく報道されたらしいのですが、僕はマニラにいなかったせいで、まったく何の影響も受けませんでした。たぶんテレビをつけなかったら、その事実さえ知らないまま旅をしていたことでしょう。マニラに住んでいる人にとっても、状況は同じようなものだったようです。騒ぎがあったのはマニラでもごく一部に限られていて、それ以外は平穏無事だったのです。マニラに住む人が「NHKやCNNを通して見ると、フィリピンが別の国のように見えた」と言っていたのが印象的でした。
「日本で伝えられるニュースとは、すなわち悪いニュースのことだ」という法則は、比較的馴染みの薄い国に共通して見られます。もちろんその悪いニュースが事実の一部分であることは確かだけれど、その事実の一部分がその国全体のイメージにまで拡大されかねないところに、ニュース報道の危うさが潜んでいるのです。 例えば新宿歌舞伎町で発砲事件があって、ヤクザが一人殺されたというニュースを元に、「日本という国はしょっちゅう人が射殺される危ない国だ」と判断するようなものです。日本人なら誰でも「そりゃ違うだろう」と突っ込みを入れたくなりますよね。
いずれにしても、旅人は自分自身で身の安全を確保しなければいけません。「何を危険だとして避け、何を安全だと信じて取るのか」という取捨選択は、旅人ひとりひとりの手に委ねられているのです。
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■ 旅の質問箱「謎の収入」
今回も長く旅をされていますが 三井さんは収入はどうしてるんでしょうか? なんかバイトしてるのか、それとも本の印税が入ってくるのでしょうか? いつも謎です。 私も短い旅を続けながら日本で生活したいのですが どうやったらよいのかわかりません。 よろしければアドバイスお願いします。
■ 三井の答え
「いつも謎」ですか。そうですか? いろんなところでちょこちょこと書いたり、喋ったりはしているんですけれど。
僕は写真集「アジアの瞳」が出版されてから、「写真家」を名乗るようになったのですが、それ以後は写真家としての収入のみを頼りに生活しています。それ以前は、サラリーマン時代の貯金を食いつぶし、情報誌のライターの仕事をアルバイトでやったりしながら、糊口をしのいでおりました。
今の僕の収入の大きな柱は三本あります。 まずは著作の売り上げ(印税収入というやつですね)。もちろんこれは大きいです。 それから他のメディアへの写真の提供や、雑誌などに旅のことを書いたり、写真展や講演会を行ったり、という二次的な収入。 そして「たびそら」での収入。ポストカードやCD−ROMの売り上げなどですね。これもまた僕にとって貴重なものです。 この三本の柱を合わせると、日本でわりあいに質素な暮らしを送り、一年の半分ぐらいを旅に費やすぐらいの収入にはなるのです。
日本で働いて貯めたお金で、1年のうち数ヶ月を旅に費やしている旅人はたくさんいます。特にアジアを旅するのはあまりお金がかからないので、例えば1年のうち8ヶ月をアルバイトや派遣社員として働いて、残りの4ヶ月をアジアでのんびり過ごす、ということは十分に可能なのです。会社に縛られない雇用形態であれば。
でも、おそらくあなたがお聞きになりたいのは、「旅を仕事にする生き方とはどういうものか?」ということなのだと思います。しかしそれを聞かれても、僕には答えようがありません。僕は自分で収入の道を見つけて、それを広げているわけで、一般的な参考となる例だとは思えないからです。
今年も長く一人旅を続けましたが、それが仕事のための旅だと思ったことは一度もありません。自分の好きなところに行き、好きな写真を撮る。それが結果的に仕事に結びつけば喜ばしいことだ。もし結びつかなかったら、また別のことを考えればいいさ。いつもそのように考えているのです。
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