■ 旅の質問箱「写真データーの保存方法3」
初めまして。
5、6年前にホームページ「たびそら」で「アジアの瞳」の表紙になっている少女の写真を見て以来、子供の笑顔や現地の様子について興味を惹かれ、たびたび写真を拝見しています。
恥ずかしながら、私も三井さんのような仕事に憧れたこともありました。しかし、道半ばで方向が逸れてしまい、30歳になった現在も不安定な状況のまま過ごしています。ですが、ジタバタしながらも何とか生活していけるようにしている努力している最中です。こうなったのも自由を求めた結果の責任ですから。
20代の頃、いろいろ悩みましたが結局は自分なりに納得して生活していくしか人生は成り立たないのだと考え始めています。どんな状況にも不満や不安はつきものでそれと折り合って生きていくしかないのだと思います。「自由と自立」に関する質問で三井さんが回答していた内容が妙に納得できました。自由には責任が伴うということでした。まさしくその通りだと思います。
こういう経緯もあり、三井さんの仕事に関しては、陰ながら応援しています。
少し横道に逸れてしまいました。さて、本題ですが、「写真データの保存方法」について質問があります。以前にも2回ほど質問があるようですが、またかと思わずにアドバイスをいただければと思います。
私の場合は、外付けHDDとDVD(CD)にデータを保存していますが、最近、保存期間について気になり始めました。フィルムの場合はおそらく半永久的に、保存、焼き増しすることができると思います。しかしながら、DVDなどデジタルデータの場合は、10年後、20年後も保存できるのかという疑問が湧いてきたので、どのように保存しているか教えていただきたいと思い、連絡しました。
これまでの話にもあるように、パソコン上での保存のほか、DVD(あるいはCD)にデータのバックアップをしているとのことですが、既にDVD(あるいはCD)に焼いたデータを数年後に再度新しいDVDなどに保存し直したりはしていますか?また、長期間保管する方法をご存知でしたら教えて下さい。
技術はアナログからデジタルになりましたが、保存性についてはアナログの方が良いだろうと思います。
■ 三井の答え
先日、とある脳科学者の本を読んでいたときに、こんな言葉に出会いました。
「不安こそが脳にとっての栄養源なのです」
未来への不安があってこそ、はじめて人は未来を計画するモチベーションを得られる。未来を計画するから「うまく行かなかったらどうしよう」という不安も生まれる。つまり「悩みがない人」は未来を計画する必要もなく、脳を目一杯使う必要もないから、記憶力も低下する。
なるほど、と思いました。悩んだ末に行動しない「堂々巡り」もダメだけど、悩みや不安がまったくない人生というのは確かにつまらない。自分がこの先どうなるかわからないという不安を抱えながら、自身の最大限のパフォーマンスを引き出そうとあがくときに人は成長する、ということなのでしょう。
振り返ってみれば、僕の人生も悩みと不安だらけでした。そしてその状態は今でも変わっていません。一応写真家として生きているものの、いまだに「道半ば」であるし、その道がいつふっと消えてしまうかもわからない。山あり谷あり、森あり砂漠あり、です。
でも間違いなく面白い人生です。それだけは断言できます。誰かに「変わって欲しい」と言われても「イヤだよ」と答えるでしょう。さほど性能は良くないけれど、僕は自分の人生という乗り物をハンドルすることを楽しんでいます。
あなたが今何を目指しているのかはわかりませんが、「まだ」30歳なのだから、いろいろと試行錯誤されるのもいいのではないですか。予想もしなかったことが実は自分に向いていた、と気付くことがあるかもしれませんし。
健闘を祈ります。
さて、僕の回答もかなり横道にそれてしまいました。本題の「写真データーのバックアップ」についてです。
「デジタルデータの場合は、10年後、20年後も保存できるのかという疑問が湧いてきた」
とのことですが、これは至極まっとうな疑問です。そしてその疑問に完全な答えを出せる人は存在しないはずです。というのも、DVDや大容量ハードディスクが製品化されてからまだそれほど時間が経っていないので、実証的なデーターを誰も手にしていないのです。
今のDVDが20年後も読み取れるのか。それはわかりません。読み取れるかもしれないし、読み取れないかもしれない。
しかしだからといって「大切な写真は印刷して(アナログデーターとして)保存しておく方がいい」という意見には与しません。というかナンセンスだと思います。デジタルはデジタルとして保存するのが一番。劣化もしないし、紛失や消失の危険も最も少ないと考えています。もちろん適切な保存方法をとれば、ということですが。
ここでこの10年間、僕がデジタル写真データーをどうやって保存してきたのかを振り返ってみましょう。
2001年の旅ではCD-Rに保存していました。当時は写真データーも少なかったから、10ヶ月の長旅で撮った写真がCD-R数枚に収まってしまいました。
その後2004年まではCD-Rに、その後はDVD-Rに保存していました。容量は約7倍になりましたが、写真一枚のデーター量も増えたので、かなりの枚数を焼かなければいけませんでした。確か一回の旅で50枚以上のDVDを焼いていたはずです。量も膨大だし、手間もかかりました。
2009年からは外付けHDDに保存する方法に切り替えました。250GBとか500GBとかの大容量ポータブルHDDが安価で買えるようになったからです。これは画期的でした。いちいちディスクに「焼く」必要がないので時間の節約にもなるし、ミスも少なくなりました。
現在では、3TBという大容量HDDが1万円あまりで買えます。3テラですよ。これ一台で僕が10年の間に撮った写真データーがすべて入ります。たった1万円で、これまで撮ったすべての写真の完全なバックアップが取れる、ということです。そういうハッピーな時代が来たということです。
そして肝心なのは、HDDなどのIT技術には「ムーアの法則」があるということです。これは簡単に言えば「ハードディスクの容量が1年半後には2倍になる」という経験則で、つまり10年後には今の100倍程度の容量になっていることが予想されるわけです。300TBですよ。すごいですねぇ。
記録メディアの容量はこれまでも指数関数的に増えてきたし、おそらく今後しばらくはこのペースで増え続けることでしょう。もちろん、単位容量あたりの値段もおそろしく安くなるに違いありません。
つまり僕が言いたいのはこういうことです。
「大容量データーを保管するコストは、今でも限りなくタダみたいなものだけど、今後はもっともっと安くなる。だから全然心配いらないよ」
データーの消失をご心配なら、3台のHDDにまったく同じデーターを記録しておけばいいのです(別に4台でも5台でも構いませんが)。そして数年後に、また別のHDD(あるいはもっと効率の良い記録メディア)に保存し直せばいい。それでOKです。一度に3台すべてが消えてしまう可能性は限りなくゼロに近づくでしょう。
クラウドサービスを使ってネット上にバックアップを置くという方法もありますが、今のところコストパフォーマンスも使い勝手もよくありません。
CDやDVDやHDDなどの記録メディアは基本的に「賞味期限が数年」だと考えましょう。そしてその都度、最新の大容量メディアにそっくりそのままコピーするのです。たいした作業ではありません。少なくとも何千枚もの紙焼きを作ることの数百分の一の作業量でしょう。こうすれば「CD-Rが20年後も読み取れるかどうか」という答えのわからない問いに悩まされる必要はなくなります。
デジタルデーターの最大の利点は完全なコピーが簡単に取れること。一度作ったデーターを同じメディアのままで後生大事に取っておくというのは、デジタル時代にはナンセンスなのです。
HDDを「物理的に」別の場所に置いておく、というのも大切な配慮です。ひとつはPCの中に、もうひとつは家の押し入れに。もうひとつは実家に預けておく。これなら万が一地震、火災、盗難に遭っても大丈夫です。
大切なのは「常に更新すること」と「分散保存すること」です。
この二点を意識してバックアップを行えば、デジタル保存はアナログ保存よりもはるかに堅牢な保存方法になります。
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