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  たびそら > 旅行記 > ミャンマー編(2013)


学校は笑顔の宝石箱


 ミャンマーの小学校は、笑顔がたくさん詰まった宝石箱のような場所だった。

 カメラを向けたときの子供たちの反応はとても素直で、好奇心に満ちた笑顔をこちらに向けてくれるし、窓から差し込む光が暗い室内にほどよいコントラストを与えてくれるので、自然光を生かした写真が撮りやすかった。
 もちろん子供たちが顔に塗っている日焼け止めの「タナカ」もフォトジェニックだった。



























 しかし、ミャンマーの小学校が置かれている状況は決して良いものではなかった。特に田舎の小学校では、校舎の老朽化と教員不足が深刻だった。5学年を3人の教師で教えているところもあった。もちろん2学年を同時に教えることはできないから、半分の生徒は自習ということになる。当然のことながら先生の目は行き届かないから、勝手に教室を抜け出す子供もいれば、教室の床にごろんと寝転がってしまう子供もいる。

授業中、鼻血を出して倒れてしまった男の子

 授業のレベルも高いとは言えなかった。特に低学年の子供たちはひたすら何かのフレーズを大声で暗唱させられるか、ビルマ語の「あいうえお」を書き取りしているかのどちらかだった。子供の創造性や自主性を重んじるような授業は皆無で、言われたことをただ繰り返すことに終始していた。

【動画】ミャンマーの小学校の授業風景

「教師の給料はとても安いんです」
 とある女性教師はこぼした。月給は4万チャット(4000円)程度で、これではいくら物価の安いミャンマーでも家族を養うことはできない。だから90%以上の教師は女性だった。収入を夫に頼りながら、妻が(半分はボランティア精神で)教師を続けるというパターンが一般的なようだ。安月給でモチベーションが上がらないせいなのか、遅刻や無断欠勤を繰り返す教師も多いという。

小学校の先生の9割が女性だった



 少ない収入を補おうと、学校の中で「副業」を行う教師もいた。ある女性教師は休み時間を利用して子供たちにアイスキャンディーを売っていた。エアコンも扇風機もない学校の中は相当な暑さになるし、子供たちの数も多いから、アイスキャンディーは飛ぶように売れていく。大きなクーラーボックスがたちまち空になってしまった。

 アイスはひとつ100チャット(10円)と安いものだが、とにかく数が出るだけに、毎日続ければ教師としての給料を上回るぐらいの収益を上げられるのではないかと思う。

暑い学校ではアイスが飛ぶように売れる

 教師が学校の中でお菓子を売り歩いて収入を得ているなんて、日本では絶対にあり得ない光景だが、ミャンマーではとりたてて変だとは思われてないらしい。「そもそも教師の給料が安すぎるのが問題であり、自分はそれを解決するためにうまい方法を思いついたわけだから、何らやましいところはない」と考えているのかもしれない。

 副業としてアイスを売るなんていうのはまだマシな方で、もっとひどい教師になると「賄賂」を収入源にしている人もいるという。これは教師から直接聞いたわけではないから(もちろん聞いても答えてくれるわけがない)、真実かどうかはっきりとしないのだが、賄賂の供出を拒んだ親の子供を進級させないというひどい教師もいるらしい。

 ミャンマーでは公務員や警察官が賄賂を取るのは当たり前だという話はよく耳にしたが、まさか小学校の先生までも汚職に手を染めているとは思わなかった。そんなことがまかり通るのも、教師の給料があまりにも安いせいで、モチベーションが保てないからなのだろう。

 ミャンマーは発展途上国の中でも教育レベルが高く、識字率92%は東南アジアの中でもトップレベルなのだが、こんな状況がいつまでも続くようであれば、国の未来に暗い影を落とすことにもなりかねないだろう。








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