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韓流ブームはここにも
ミャンマーを旅しているあいだに、「あなたは日本人か?」と訊ねられたことはほとんどなかった。7割は「コリア?」で、2割が「チャイニーズ?」、残りの1割が「ジャパニーズ?」だった。何の前置きもなく、「アニョハセヨ」とか「カムサムニダー」と声を掛けられることもあった。「あなたは韓国人俳優の○○に似ていますね」と言われて返事に困ることもあった。
10年前はこうではなかった。東アジア系の顔立ちならば、まず日本人である可能性を疑うというコンセンサスがあった。それがわずか10年で逆転したのは、サムスンやLGといった韓国企業が躍進したこともあるが、やはり一番大きいのは韓流ブームの影響だろう。
ミャンマーでも韓国ドラマは大変な人気で、国営テレビでも毎日放送している。「冬ソナ」と「ヨン様」はミャンマーでも絶大な人気を誇ったらしい。残念ながら日本のドラマはまったく流れていない。昔は(ずいぶん昔だけど)「おしん」が大流行したこともあったし、サニー・チバ(千葉真一)も古い映画ファンのあいだでは伝説的な存在になっているが、今では韓流に押されっぱなしである。
「韓国の役者は表情や動きで感情を表現するんです。だから私たちにもすぐにわかる。ミャンマーの役者はただセリフを喋るだけだから退屈です」
とマンダレーに住む大学生は言った。彼もそうなのだが、ミャンマーの若者のあいだでは韓流スターの髪型やファッションを真似ることが流行している。髪の毛を茶色に染めたり、前髪を長く伸ばしたりするスタイルは、韓国から持ち込まれたもの。美容院のガラス窓にも当然のように韓流スターのポスターが貼られている。
ミャンマーの若者たちにとって韓国とは「イケてる国」であり「憧れの国」なのである。だから韓国人に間違えられても悪く受け取る必要はないし、褒められていると考えるべきなのだ・・・・・・と理解してはいても、実際に「コリアンか?」と言われるとビミョーな気持ちになってしまう。「いやいやオレはジャパニーズだよ」と訂正したくなるのだ。
ソニーのプレイステーションは子供たちに大人気だし、ポケモンやドラえもんなどの日本製キャラクターの人気も高い。しかしこれらはすべて「顔の見えない文化」である。そこが韓流ドラマとの大きな違いだ。多くのミャンマー人が日本製品に触れ、日本という国に親しみを感じているにもかかわらず、日本のプレゼンスが低下しているのは、どうもこのあたりに原因がありそうだ。
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食堂のおじさんが昔懐かしい「ボンバーマン」に熱中していた。ファミコンも「顔の見えない日本文化」のひとつだ。この怪しげなゲーム機は「SONY」のロゴが入っているのだが、もちろんメイド・イン・チャイナのバッタもんである。 |
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ほとんどのミャンマー人は中国人と韓国人と日本人の違いがよくわからないのだが、日常的に外国人と接している土産物屋の男は、この三者を一目見ただけで区別できると言った。
「中国人はファッションが違うからすぐにわかります。まぁダサいですよね。韓国人と日本人は服装も顔立ちもすごく似てるけど、歩き方が違うんですよ。韓国人はまっすぐ前を見て歩くけど、日本人はキョロキョロしながら歩くんです。ちょうどあの人みたいにね」
彼が視線を向けた先には、眼鏡をかけたほっそりとした女の子がいた。彼女は市場に置かれた商品をひとつひとつ物珍しそうに眺めながら、ゆっくりとした足取りで歩いていた。あとになってわかったことだが、彼女は確かに日本人だった。バッグから「地球の歩き方」を取り出すところが見えたのだ。
国民性というのは意外なところに出てくるものなのかもしれない。話し方や声の大きさはわかりやすい判断材料だが、歩き方や視線の送り方などにも無意識にすり込まれた「○○人らしさ」が出てしまうのだろう。もちろん僕だって「キョロキョロ型」の歩き方をしているはずだ。
日本ブランドの威光
韓国勢や中国勢の猛追を受けているとはいえ、日本製品のブランド力はまだまだ高い位置にある。トヨタやホンダやソニーといった一流メーカーはミャンマーでも広く知られているし、パナソニックや東芝、ニコンやキヤノンの看板も街でよく見かける。ハイテク立国日本の地位は、当分のあいだ揺らぐことはなさそうだ。
日本ブランドの威光はコスメティック業界にも及んでいた。大きな街には資生堂のショップがあるし、化粧品の名前に(本当に日本製なのかは怪しいが)日本を連想させるような言葉をつけるのも流行っていた。
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「モリ」という日本語を連想させる名前で売り出されたファンデーション。看板の女性も日本的だ。 |
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ミャンマー女性のあいだには「日本人は色白で美人」というイメージが定着しているらしく、「日本人が愛用している化粧品を使えば、私の肌も白くなる」という期待を抱かせるようだ。
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こちらは「オキ」という名前の洗濯洗剤。JAPANESE TECHNOLOGYと書かれているが、日本製ではない。 |
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地味な存在ながら東南アジアにすっかり定着しているのが「味の素」 |
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OSAKAと名付けられた傘の広告。大阪って雨の街だったっけ? |
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こちらは「フジヤマ」という名前の自動車部品ショップ |
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ミャンマー人の男の子が着ていた不思議なTシャツ。ファッション誌の記事と思われる日本語がびっしり。なるほど、ボトムス選びが着こなしのポイントなんですね。 |
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ミャンマーを旅しているとボディーに日本語が書かれたバスを目にすることがあるのだが、これも日本ブランドの威光を借りた戦略だと思われる。「オレは中古車の中でも特に品質が高い日本車に乗っているんだぜ!」というアピールのために、わざと日本語のロゴを消さずに残しているのだ。
こうした「日本語バス」の中には、ちょっと怪しげなものも混じっていた。日本で書かれた文字ではなく、日本語を知らないミャンマー人が見よう見まねで書いたのではないかと思われるような奇妙な字体に出会うことがあったのだ。
これなんかよく見ると細部がフリーハンドで書かれているし、かなり下手である。そもそも「自動車用室内芳香剤」って何のアピールなのか意味がわからない。
「夏休みの旅行社」という名前の旅行会社が日本にあっても不思議ではないが、なんとなくヘンだと感じるのはフォントが少しズレているからだろう。
こんな風に一部の文字が反転しちゃっているものもあるし、
完全に裏返っているものもある。
こちらは上下左右ともに反転している。
何をいつ噴射するんだろう?
たぶん「とちの木」と書きたかったのだろう。それが「とちのホ」になっちゃった。惜しい・・・・・・けど残念!
何を書きたかったのか原形すらとどめていないものもあった。
「走行中おの未多」って・・・・・・一体なんだろう?
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