質問:子供の反応がヘン

三井さんはじめまして。
「たびそら」のアジアの普通の暮らしに密着した写真が大好きです。どの顔も本当に美しいと思います。
 
最近、私の教え子に(小学校の教師をしております)三井さんの写真を見せたのですが、反応がよくないのです。
 
瞳の輝きや、生き生きと働く人に目を向ける子は少なく、もっぱら「水牛がカワイイ」とか「服装がヘーン」とか、そういう些細な所にばかり目が行くのです。
 
こんな子供たちの反応を聞いて、三井さんはどう思われますか?
やはり物質的に恵まれた日本の子供たちには、命の本質が見えづらくなっているのでしょうか?
 
 

三井の答え

 僕の写真を見た子供たちの反応は、ごく自然なものだと思いますよ。
 
 子供たちが瞳の輝きなどに関心を示さないのは、彼らが「命の本質」を見失っているからではなくて、「命の本質」のただ中に生きているからだと僕は思います。
 
 子供たちにとって好奇心いっぱいの瞳の輝きや、無邪気な笑顔は、日常的に目にする当たり前のものであり、とりたてて注意を払う必要がないのです。それよりも、日常目にすることのない水牛や、異国の服装などに注意が向くのは当然でしょう。
 
 僕も旅をしているときに、地元の子供たちに写真を見せてあげることがありますが、そのときの反応もあまり芳しいものではありません。それこそ背景に写っている水牛やラクダといったものに興味を抱くのです。日本の子供とまったく同じです。
 
 僕が(そしてあなたが)アジアの人々の生き生きとした姿に惹かれるのは、僕ら自身がいつの間にかそうした「無垢な生命力」を失ってしまったからではないだろうか。
 僕ら自身が持つ欠落感や喪失感が、それをまだ失っていない子供たちの姿を「かけがえのないもの」に見せているのではないか。
 それが僕の意見です。
 
 つまり大人になるということは、後悔を抱きながらもう戻らない過去を振り返ることなのです。
 
 僕らは無垢な時代には戻れません。だからこそ、他の誰かにそれを見出したくなるのです。
 
 旅をしていると、ときどき懐かしさと痛みと喪失感が混ざり合ったような感情に襲われることがあります。
 そして、そのようなときにはいい写真が撮れることが多いのです。