質問:ムスリム男性からのアタックに困惑

 私はパキスタン人との交流があります。仕事関係です。34歳で独身なのでパキスタンに行くとすごい好奇な目で見られます。「何故結婚しないの?」と非常に聞かれます。なんとか誤魔化しているのですがそれを狙ってか、アタックしてくる男性もいます。
 
 日本で仕事していると、結構30を過ぎても独身でいる女性は多くいますし、結婚に対してそんな重要視していない社会になってしまいましたよね?(←なんか言い方が変ですけど・・)
 
 仕事ではパキスタンの人とこれからもずっと良いおつき合いをしていきたいと思っています。
 でも、いつもそんなことを聞かれるのでちょっと辛いんです。
 
 大家族構成で家系を重んじる社会と日本の社会はまったく違います。私にはその違いがわかりますが、パキスタンの人は「何故、親と住まないんだ?」「何故、親戚と一緒に暮らさないんだ?」と本当に不思議がるんです。なんか私が悪いことしているような罪悪感さえ感じることがあるくらいに・・。
 
 要するに「重たく」感じることがあるんです。そういうイスラムの人たちとどうやってうまくつきあっていけばいいのか三井さんの意見を聞きたいです。
 
 自分ではパキスタン人の特徴を掴んでいれば、時には「合わせられる部分」もあると思うのですが、そういった特徴みたいなものってあるんですか? 例えば日本人は「シャイ」みたいな・・。
 なんか「質問」というより、人生相談みたいになってしまってすみません・・(^^;)
 
 

三井の答え

 僕は女性ではないので、直接に迫られた経験はないのですが、イスラム圏を旅したことのある女性旅行者からは、男性から求愛されて困ったという話をよく聞きます。パキスタンで、「俺と結婚してくれ!」という言葉を誰からもかけられなかった若い女性旅行者は、ほとんどいないんじゃないかな、というぐらい。
 
 しつこいことで有名なのは、パキスタンとトルコです。日本人と見ると反射的に声を掛けてくるような輩が特に多いようです。これは例えばイタリア人が日本の女の子を口説いて回る、というのとはわけが違います。
 
 イスラム圏の男性は、一部の例外を除いては、女性にとても飢えています。パキスタンやアフガニスタンやイランなどでは、自由恋愛というものが社会的にあまり認められていないし、女の子は年頃になると、家族以外の人目をはばかるようになる。そういうところに、チャドルで顔を隠してもいない、つまり素顔を堂々と晒している外国人女性が歩いていると、それだけで若者たちのテンションが上がってしまうのは仕方がないところでしょう。
 
 もちろん、「日本人と結婚できれば、日本で仕事ができる=金持ちになれる」という気持ちもあります。実際に日本人女性と結婚して、日本で職を得て、豊かな生活を送れるようになった、というサクセスストーリーは珍しくないし、それを又聞きの又聞きぐらいで知って、「下手な鉄砲かず撃ちゃ当たる」式にあたり構わず声を掛ける人間がいるのも確かです。
 
 これは日本人に限ったことではありません。今年モロッコに行ったときに、英語が話せる土産物屋の若者やガイドと話をしたのですが、彼らに「恋人はいるの?」と聞くと、「いるよ。外国人だけれど」という答えが返ってきたのです。
 
「どうして外国人なんだい? モロッコの女の子はとても美人じゃないか?」
「モロッコ人は綺麗だよ。でもね、『関係』を持つためにはね、向いていないんだ」
 彼が言う『関係』とは、セックス、婚前交渉のことです。モロッコはパキスタンに比べればずっとヨーロッパに近いし、ライフスタイルも近代化しているのだけど、やはり結婚までは処女でいるべきだという考え方がまだまだ強いのです。
 
 しかし男性の性欲というのは、いくら社会的に縛ろうとも、厳然としてある。その行き場のない欲望は、モロッコを訪れる外国人――特に多いのがフランス人とスペイン人――に向けられる、というわけです。
 
 このように外国人旅行者がモテる、というのはある程度万国共通なのだけど、日本人が特によく声を掛けられるのも事実です。そうなるのには、それなりの理由があるようです。
 
 まず、小さい。かわいらしい。ドイツ人やカナダ人のやたらがっちりとしたバックパッカー女性に比べれば、ほっそりとして、(欧米人に比べれば)か弱そうに見える日本人がターゲットになりやすいのは、まぁ頷ける話です。北斗明みたいなたくましい女が好きだという佐々木健介のような男は、世界でも相当なマイノリティーなわけです。
 
 それから、日本人女性ははっきりと「ノー」と言えない、ということもよく聞きます。もちろん、「さっきからイヤだって言ってんだろ、バカヤロー!」と啖呵を切る、あっぱれな女の子もいますが、普段言い慣れていないことをとっさに言うのは難しいもの。だから態度を曖昧に保留したまま、結果的に相手をその気にさせてしまう、ということになるのです。
 
 ですから、もしパキスタン人に結婚を迫られた場合は、はっきりと「その気はない」という意思表示をするべきだと思います。日本人のように「態度や表情から読み取ってよ」というのは無理な話で、きちんと言葉にしないと、伝わらないと思います。
 
 それから、イスラム圏の人々が結婚について、家族について、熱心に知りたがるのは、プライベートを根掘り葉掘り聞こうという意図があるわけではなく、それが彼らにとって当たり前の挨拶(日本人にとっての天気の話や、景気の話)みたいなものだからだ、ということも理解してあげてください。
 
 彼らにとって家族はもっとも大切なもの。だから父親の名前や、母親の名前、父親の職業、兄弟は何をしているのか、といったことを聞きたがるのです。それが他人を知るための第一歩であると考えているのであって、他意はないのです。
 
 価値観や家族観、あるいは人生観が大きく違う異国の人々と、話をし、理解し合うのはとても難しいことです。そのことを僕は旅先でいつも感じています。言葉だけではなく、いろんな壁がある。
 
 それでも、そういう困難さに直面することによって、日本では得ることのできない新鮮な体験を得られることも多いし、だからこそ異国を旅するのは面白いのです。
 面倒なことも多いですが、どうぞあなたなりの「異文化交流」を楽しんでください。