「好きなことを仕事にするのはやめた方がいい」
 と言う人がたまにいるけれど、決してそんなことはない。自分が本当に好きなこと、寝食を忘れて打ち込めることが仕事になる。それ以上に幸せなことって、この世の中になかなかないと思う。
 
「好きなことを仕事にできるんだったら、どんどんやるべきだ」
 というのが僕の立場だ。だけど「自分の好きなことを追求したら、誰もが必ず仕事に結びつく」わけではないのも確か。「好きなこと」と「向いていること」は往々にして違う。そこが人生の難しいところだ。
 
 歌うのが好きな人はたくさんいるけれど、プロの歌手になれるのはほんの一握りだ。絵を書くのが好きな人も多いが、全員が漫画家やイラストレーターになれるわけではない。どうしたら「好き」を仕事に結びつけられるのか。その可能性を高めることができるのか。そこで悩んでいる人は多いのではないか。
 
 人気ブロガーのかさこさんは「好きなことを仕事にする」を自ら実践し、そのノウハウを伝える講座を開いて、多くの受講生を集めている。フリーランスのライター&カメラマン&編集者として活躍するかさこさんがこれまでに出版した著作は19冊を数える。彼と僕は奇しくも同い年で、二人とも撮ること・書くこと・話すことを生業にしている。
 
 そのかさこさんと初めてお会いしたのは銀座だった。僕の写真展に来てくださったのを機会に、じっくりお話しすることができた。
 

 

 ブログでは歯に衣着せぬ辛口のコメントで知られるかさこさんだが、実際は人当たりのとても柔らかな人だった。イメージと全然違う。
「ネット上のイメージとのギャップがあまりにも大きいんで、『どっちが本当なんですか?』と聞かれることもあるんです」とかさこさんは笑う。
「で、どっちが本当なんですか?」
「どっちも本当なんでしょうね。ブログを書いているときは『日本人がはっきりと言わないことを、あえてはっきり言おう』と意識してはいます。当たり障りのないことを書いていても、誰の注目も引かないから」
「批判されることは覚悟の上なんですか?」
「いや、結構ヘコみますよ。原発問題とか、身体障害者について書いたときには、批判のコメントもたくさん来ます。たとえ大多数の人が賛成してくれていても、否定的な意見が来るのはやっぱり嫌なものですよ」
 
 意外な言葉だった。時には極論とも思えるラディカルな意見を書くかさこさんでも、批判的なコメントにはやっぱりヘコむのだ。それがわかって、少しほっとした。どんな批判も華麗にスルーできる「鈍感力」を備えた人間なんて、なかなかいないのだ。
 
 しかしたとえ一時的にヘコんでも、それでかさこさんが自分の意見を曲げたり、本音を隠すようなことはしない。いいものはいいし、ダメなものはダメだとはっきり言う。どんなときにもぶれない軸を持っているからこそ、多くの読者がついてくるのだろう。
 
 そんなかさこさんが「好きなことを仕事にする方法」としていつも強調しているのは、「発信する力」を磨くことだ。ブログやSNSを使って情報を発信するのはもちろん、「セルフマガジン」という冊子を自費で発行したり、印象に残る名刺を作ったりして、自分を認知してもらう努力(セルフブランディング)を怠らない。好きなことを仕事にするためには、ネット上で情報を発信するだけでは不十分で、実際に人に会って自分を売り込むことも欠かせない。
 
 かさこさんの強みは、優れた企画力と、即断即決の実行力だ。「書く」「撮る」「編集する」以外にも、作詞作曲をしたり、ドキュメンタリー映画の監督をしたりと、活動の場は実に幅広い。失敗を怖れずに、常に前向きに自分の可能性を探っているのだ。
 
 かさこさんの失敗を怖れないハートの強さは、大手サラ金に2年間勤めたことで鍛えられた部分も大きいようだ。サラ金の営業というのはアポなし飛び込みが当たり前なので、ほとんどの場合あっさりと断られる。100回行って、1回成功すればいいという世界らしい。断られても断られても、それを引きずらず次をあたる。その経験で身につけた打たれ強さと営業力が、フリーランスになってからも仕事に生かされているという。
 
 僕も大学を卒業してから2年間、機械メーカーでエンジニアとして働いていた。そこから人生をリセットして、今は写真家として暮らしているのだが、それは必ずしも一直線の道のりではなかった。失敗を繰り返し、回り道をしながら、何とか前に進んできたのだった。
 
 僕ら二人の経歴から言えること。
 それは「人生はいつでもやり直せる。その気さえあれば」ということだと思う。