質問:旅のBGMは?

いつかは忘れてしまいましたが、三井さんが「旅の必須アイテムはiPodだ」と書かれていたのが印象に残っています。
iPodの中身って人によって全然違いますよね。その人の好みがすごく反映されている気がします。
もし良かったら、三井さんのiPodの中身を紹介してもらえませんか?
旅のBGMとしてお聞きになっている音楽がどんなものなのか、すごく興味があるんです。
よろしくお願いします。
 
 

三井の答え

 おっしゃる通り、僕は2004年の旅からずっとiPodを愛用しています(今はiPod-nanoを使っています)。これがなければ、長旅はもっと辛く、孤独なものになっていたでしょう。
 
 一人寂しいときには歌に励まされ、度重なるアクシデントに疲れたときには音楽に癒されながら、僕は旅を続けてきました。
 
 というわけで、三井が勝手に選ぶ「長旅に合う曲ベスト10」を発表しましょう。
 

○ Mike & The Mechanics 「Word of Mouth」
 2006年にスマトラ島を横断する旅をしたときに、iPodで毎日のように聞いていたのがこの曲です。これは僕が高校生だった頃(ずいぶん昔ですね)にヒットした曲なのですが、改めてじっくりと聞き直してみると、そのときの僕が置かれていた状況がそのまま歌になっているように聞こえたのです。
 特に印象的なのはサビの部分です。
「 西の端から東の端まで行くときに
  北の端から南に行くときに
  君がもしWord of Mouth(クチコミ)を信じるなら
  きっと悪いようにはならないさ 」
 僕はちょうどそのときスマトラ島を北西端から南東端まで横断しようとしていたのです。そしてまさに現地のクチコミ情報を頼りに旅を続けていた。それに助けられたり、裏切られたりしながら。今思い出してみても、僕のために書かれた一曲のように思うのです。

 
○ 元ちとせ 「この街」
 歌はどこで聞くのかもとても重要です。「この街」を聞くと、僕はネパールの民家の軒下を思い出します。雨に降り込められて、行き場のない午後。どこまでも連なる雲と、山羊の鳴き声。眼下の家から立ち上る白い煙。そんな情景がくっきりと思い出されるのです。
 生まれ育った土地と全然違う場所でこの曲を聴くと、とても心に響きます。「どの街の空にも星は輝く」んだなぁと思うのです。

 
○ TNT 「Intuition」
 TNTはスウェーデンだかノルウェーだか、とにかく北欧出身のハードロックバンドです。僕の知る限りこの「Intuition」以外には目立ったヒット曲はないので、どちらかというと一発屋なのかもしれません。でも一発屋だろうが何だろうが、この曲は素晴らしい。
 特にバイクに乗っているときに聞くと、これはもう痺れます。とてもメロディアスでアップテンポな曲なので、ついついバイクのスロットをぐーんと吹かせてしまいます。調子に乗って事故らないように注意が必要な曲だと言えるでしょう。
 Intuitionとは「直感」という意味ですが、知らない土地を旅するときに、何よりも頼りになるのは直感力です。あれこれ心配して何も行動しないよりも、とにかく直感を信じて前に進もう。そんなポジティブな気持ちにさせてくれるのです。

 
○ 夏川りみ 「花」
 この「花」という曲は、アジア中で大ヒットしたそうです。僕も2001年にミャンマーを訪れたときに、すし詰め状態の夜行列車の中でミャンマー人の若者が「花」を歌っているのを耳にして、じーんときたことを覚えています。「The Boom」の「島唄」と並んで、新しい民謡の代表曲ですね。
 

○ Sing Like Talking 「Seasons of Change」
 とても美しいバラード曲です。メロディーももちろん美しいのですが、スケールの大きな歌詞がとても印象的です。
「僕が生きてる町は 狭い小さな通りで 未知の世界は大きく両手広げて」
「僕が生きてる今は 一瞬にも足りない だからなるべく遠くを見据えていたい」
 この曲には、時間と空間を超えていこうとする旅人の気持ちがよく表れています。
 

○ Don Henley 「The End of The Innocence」
 どういうわけだか、東南アジアではいまだにイーグルスの「ホテル・カリフォルニア」が人気です。バンコクのカオサン通りでも、カンボジアのシェムリアップでも、ラオスのビエンチャンでも、生バンドの演奏がある旅行者向けのカフェなどでは、「ホテル・カリフォルニア」が定番ソングとして流れているのです。
 イーグルスのリーダーだったドン・ヘンリーの「The End of The Innocence」は、「ホテル・カリフォルニア」の続編でもある歌です。この曲にもいつまでもイノセントではいられない一人の男の哀しみが歌われていて、それが旅人の心にシンクロするのです。
 

○ 小田和正 「昨日見た夢」
 インドネシア人は日本の演歌やポップソングに詳しいのです。中でも五輪真弓は誰もが知っている有名人です。以前「心の友」という曲が大ヒットしたのだそうです。僕はその曲を知らなかったのだけど。
 それはともかく、僕がインドネシアのメダンという町で出会った女の子は、日本の歌手の中でも小田和正が好きで、中でも一番のお気に入りは「昨日見た夢」だと言っていました。
 実は僕も小田和正の歌の中ではこの曲が一番好きなのです。「さよなら」や「ラブ・ストーリーは突然に」などに比べるとマイナーな部類に入ると思うのですが、独特の透明感のある歌声が気持ち良くて、とても気に入っているのです。
 

○ My Little Lover 「evergreen」
 イントロを聴くだけで、ある風景が目の前にぱっと現れる。この曲はそんな風に、記憶の奥底に眠るイマジネーションを刺激してくれる曲です。
 浮かんでくるのは、僕がまだ行ったことのない場所。深く静かな森。澄んだ水をたたえた湖。深まりゆく秋。北欧かカナダかケベックか、そういう寒い国の晩秋が頭に浮かびます。
 いつも南国ばかり旅している僕には縁遠い情景だけれど、だからこそ心に引っかかるのかもしれません。
 

○ ゴダイゴ 「ガンダーラ」
 古い歌ですが、今あらためて聴いても新鮮に響く名曲です。
 僕らの世代だと、この歌を聴くと自動的に堺正章と夏目雅子のドラマ「西遊記」を思い出しますが、三蔵法師の壮大な旅にもぴったりなこの曲は、やはりアフガニスタンやネパールやインドなどで聞くのが相応しい。デカン高原の荒涼とした山岳地帯でこの「ガンダーラ」を聞いたときにも、独特のメロディがじんわりと心に染みこんできました。

 
○ Phil Collins 「Take me home」
 長旅を続けていると、日本に帰りたくなる瞬間が必ずあります。移動続きで疲労したり、立て続けにトラブルに見舞われたり、宿のベッドに南京虫が出たり。
 そんなときにこの曲を聴くと、ささくれだった気持ちが落ち着いてきます。フィル・コリンズの歌声を聞きながら、ゆっくりと目を閉じると、心だけを遠くにある「Home」に連れて行くことができるのです。