【質問】
写真家を目指している大学生です。ちなみに大学で勉強しているのは、写真とは何の関係もない経済です。就活では無難な企業に就職しようか、それとも写真家を目指してアシスタントになろうか迷っています。
三井さんは写真集を8冊も出版されています。とても羨ましくもあり、尊敬しています。私もいつか自分の写真集を出版して、多くの方に作品を見てもらいたいと思っています。
写真集を出版するには何をしたらいいのですか?
よろしければ教えてください。
出版社への持ち込みですか?それとも賞に応募すればいいのですか?
【三井の答え】
今の時代、ただ美しい写真を集めただけでは、なかなか写真集にはなりません。出版業界自体が低調で、しかも写真集は売れ行きが芳しくないという厳しい現実があるからです。よっぽどのネームバリューがあるのならともかく、実績のない新人が一冊の本を出版するというのは、出版社にとって大きなリスクなのです。
だからこそ、アイデアが必要です。あなたの写真のテーマを明確に打ち出し、わかりやすくパッケージ化しなければいけません。本という商品を買ってもらうための仕掛けがいるのです。
あなたがどのような写真を撮っているのか、どのような切り口の写真集にしたいのか、このメールだけでは判断ができませんが、もしまだ明確なテーマをお持ちでないのなら、まずはひたすら撮り続けることが大切です。
撮り続けていると、自ずとテーマが見えてきます。本当に撮りたいものの輪郭がはっきりしてきます。僕もそうやって写真を撮ってきました。最初からテーマを決めるのではなく、自分の興味が向くままにひたすら撮り続けた結果、後から振り返ってみると「自分はこんなものが撮りたかったんだ」ということがわかってくるのです。砂浜に連なる足跡みたいに。
もちろんあなたがもうすでに撮りたいテーマを明確に持っているのであれば、それでも構いません。目標を定め、下調べを十分に行ってから撮影に臨むというのは、ドキュメンタリー写真の王道です。でも、少なくとも僕にとってそのやり方は合わなかった。最初から自分がやるべき事を決めてしまうと、視野が狭くなり、反射神経が鈍くなり、目の前の状況の変化に対応できなくなるからです。まずまっさらな好奇心を持って現場に立ち、自分の中にあるセンサーが反応するのを待つ、というプロセスが僕には必要なのです。
新作『渋イケメンの国』のテーマは、言うまでもなく「かっこいい男」ですが、南アジアの渋くてカッコいい男たちの生き様を撮り始めたのは、わりと最近です。それまでは「笑顔」や「美少女」や「働く人」に惹かれて写真を撮り、そのようなテーマの写真集を何冊か出してきましたが、旅の経験を積むにしたがって自分が撮りたい対象が変わってきたのです。渋いオヤジのカッコ良さが理解できる年になった、ということなのでしょう。
でもまさか「渋イケメン」ばかりを集めた写真集が本当に出せるとは思っていませんでした。類書があるわけじゃないし、需要があるかもよくわからなかった。何年か前にツイッターで「無駄にカッコいい男たちの写真集なんて面白いかも」と書いたことがあって、それに対する反応が意外なほど大きかったのが、「ひょっとしたらいけるんじゃないか」と思い始めたきっかけでした。だから「渋イケメンの国」はツイッターから生まれた写真集だと言えるのかもしれません。
僕の場合、テーマが明確になり、本のコンセプトが出来上がり、中身(写真と文章ということですが)がある程度揃った段階で、編集者に見てもらいます。そのときには企画書だけじゃなくて、なるべく完成形に近いサンプルを提示することにしています。それで出版社からGOサインが出たら、細かい条件を詰めて、体裁を整えて、出版する、という流れになります。
大きな写真賞に応募して賞をもらう、というのもひとつの手だと思いますが、(写真賞にまったく縁のない僕が言うのはアレなんですが)賞って基本的に一発勝負じゃないですか。一枚、あるいは数枚の写真で判断されるものだし、競争相手もものすごく多いし、審査員の好みにも左右されるだろうし、その中で選ばれるのってなかなか大変だと思うんですよ。
それよりはたくさん写真を撮って、それをブログなりツイッターなりSNSなりにアップして、多くの人に見てもらいながら、「潜在的ニーズ」を探るというやり方がより現実的だと思います。
写真家・三井昌志の8冊目の著作『渋イケメンの国』が12月2日に雷鳥社から発売されました。
アジア各地で撮影した渋くてカッコいい男たちがテーマの異色の写真集です。