質問:写真家になる覚悟
初めまして。福岡県の大学4年生です。
私は、大学卒業後、お金を貯めカメラを買い、外国に行き、写真や映像を使って、人間を撮り、メディアとして発信したいと思っております。
三井様の写真を見て、労働者の写真に惹かれました。私も、働く人間をとりたいと思っております。
私自身、旅と映像を仕事として生きたいという気持ちがあるのですが、覚悟がまだつきません。覚悟というのは、まだやってもいないのに、それが本当にやりたいことかという途方もない問いだったり、フリーランスとして生活することのノウハウであったり、自分が今まで日本社会のマインドコントロールで好きなことをしては生きていけないのではないかなどの自分を抑制してしまう自分自身から自由になれない時があります。
三井様はどのようにして、写真家としての覚悟を決められましたか?
沢山の尊敬する写真家のプロフィールを見てもその人がどのようにして(収入など)写真家として生活できるようになったという過程が書かれていないので、三井様の写真家になられるまでの生活のことやアドバイスなどいただけると嬉しいです。
私は、ライフワークとしてではなく、写真家として生計を立てたいので三井様にお聞きしました。
三井の答え
何度も言っていることですが、写真家に「なる」ことは極めて簡単です。あなたが「私は写真家だ」と名乗れば、その瞬間からあなたは写真家なのです。資格も要りませんし、試験もありません。門戸は広く開かれています。
だけど、写真家だと「名乗ること」と、それを「職業として続けていくこと」の間には、当然のことながら大きな壁が存在します。プロとして写真を撮り続け、何年にもわたって作品を発表し続けることは、なかなか大変なのです。安定した収入は期待できないし、最初のうちは貯金を切り崩して生活することだって必要になるでしょう。
僕がいつどのようにして「写真家としての覚悟を決めた」のか、というご質問がありました。それで改めて考えてみたのですが、どうやら僕は今まで一度もそのような「覚悟」を決めたことがないようです。僕が写真家と名乗って活動をし始めたのは、フリーランスとしてやっていく以上何らかの肩書きが必要だったからそうしたのであって、「決意」や「覚悟」があったからではありません。成り行きで写真家になってしまったという状況が、現在まで続いているのです。
もちろん、やるからには本気で取り組んできたし、自分が持てる力をすべて注ぎ込んで写真を撮ってきました。でも現在までこの仕事を続けられたのは、あくまでも「結果オーライ」だという気がしています。
「こりゃ続けられないわな」と思ったことは、これまでに何度もありました。本が売れない、仕事がない、そういう状態が続くと、そりゃあまぁ落ち込みます。でも、そうした低迷期がしばらく続くと、その後にはなぜか思いもよらないところから仕事の依頼があったりして、救われてきたのです。きっと運がよかったのでしょう。
あなたは「まだやってもいないのに、それが本当にやりたいことか」と書かれていますが、まったくもってその通りだと思います。やってもいないことがわかるわけがない。だからあれこれ考えてもしょうがない。
まずはやってみることです。あなたが本当にやりたいことを、自分のお金でやってみる。あなたには「お金を貯めカメラを買い、外国に行き、写真や映像を使って、人間を撮り、メディアとして発信したい」という明確なプランがあるのだから、まずはそれを遂行してみたらいいと思います。
その結果、いろんなものが見えてくるでしょう。「俺も行けるぞ」と思えるかもしれないし、「やっぱり実力が足りないな」と痛感するかもしれない。いずれにしても、あなたはそこで人生のコマをひとつ進めることになるわけです。足りないことがあったら、それを補う術をさがしたらいい。手応えを掴んだのなら、その道を突き進んでいけばいい。
まずは一歩を踏み出しましょう。あとのことは、まぁなんとかなりますよ。
最後にひとつ。「日本社会のマインドコントールによって好きなことをして生きていけないのではないか・・・」と書かれていますが、それはちょっと違うのではないかと思います。
考えてもみてください。インドやバングラデシュの若者たちなんて、「職業選択の自由」すらないような立場に置かれている人がほとんどですよ。親がしている仕事を継ぐ、あるいは肉体労働で日々の生活の糧を得る、そういう人が圧倒的大多数なわけです。彼らの大半は「好きなことをして生きていこう」なんて考えたこともないでしょう。
仕事というのは「自分に与えられた役割をこなすこと」であって、決して「自己実現のための手段」ではない。この世界には、そういう人々が何十億人もいるのだという事実を忘れてはいけないと思います。つまり我々は本当に恵まれているのです。
あなたを縛っているのは「日本社会のマインドコントール」ではありません。あなた自身です。
そしてその自縄自縛状態を解けるのも、あなた自身しかいないのです。
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