毎年冬が近づくと旅に出るスナフキン的生活を続けて十数年になりますが、今年もまたインドをぐるりとひとまわりする旅を始めることになりました。

 まずはエアインディアでデリーを経て、コルカタに向かいます。インド一周バイクの旅も、今年でなんと8周目。約3ヶ月かけてぐるりとインドをひとまわりする予定です。帰国するのは3月半ば。いつものように「のんびり」とは無縁の、走って走って撮りまくる濃密な3ヶ月を過ごすつもりです。

 

 

人力車と野良猫のコルカタ

 成田発デリー行きのエアインディア機は相変わらずガラガラでした。搭乗率は3割ぐらい。経営難が伝えられているけど、それも納得の不人気路線です。とはいえ機材は最新のB787で、とてもきれいだし、機内食だって悪くない。サービスがインド式なので不満を持つ日本人もいるのかもしれないけど、その辺は大目に見ようじゃありませんか。
 3列シートに一人しか座らないので、ビジネスクラス並みの占有スペース。これからインド旅行をお考えのみなさん、エコノミークラスでものんびり足を伸ばしてくつろげるエアインディアはお勧めです!

 

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 9時間半のフライトの後、デリー空港に到着。そのままトランスファーゲートを通過して、コルカタに向かう飛行機に乗り換えます。2時間前に通過したばかりのコルカタ上空に再び引き返すという非効率なフライト(グレタさん的には大いなる「恥」ですね)。

 夜10時半に無事コルカタ空港に到着しました。市内の宿までは空港のプリペイドタクシーを利用したんですが、その運転手(もちろん黄色のアンバサダー)がスマホはおろか携帯電話すら持っていないという今どきインドでも珍しいぐらいの超アナログ人間だったので困りました。

 有名ホテルならともかく、Booking.comを通じて予約したゲストハウスの場所はとてもわかりにくくて、地元の人に聞き回ってようやく辿り着けたのでした。

 コルカタにもUberが走り回っているので、誰もがスマホを持つのが当たり前の時代になっていると思いきや、一番必要だと思われるタクシードライバーが携帯すら持っていないという現実を目の当たりにして、「モダンと前近代が入り混じったインドのリアル」を垣間見た気がしました。

 

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 コルカタを代表する前近代といえばこの「人力車」。ペダルを踏むサイクルリキシャではなくて、車夫が歩いて引っ張る昔ながらの人力車がいまだに現役で走り回っているのです。政府はすでに新規のリキシャ引きの営業許可証の発行を停止しているので、現役の車夫たちが引退すればリキシャも過去の遺物となるはずだ、と言われ始めてから10年近くが経とうとしているのですが、リキシャの姿はあまり減っていないようにも感じられます。実際、コルカタの旧市街にはリキシャがよく似合う。どっこいしぶとく生き残っているなぁ、頑張ってくれよ、と応援したくなるのです。

 

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 コルカタは「野良牛がほとんどいない」というインドでも珍しい街(20年ほど前にコルカタの街中で牛を飼うことが法律で規制されて、街から一掃されたらしい)なのですが、その代わりにやたら多いのが野良犬です。時期的なものなのか、子犬の出産ラッシュが続いているようで、路地裏の片隅には小さな子犬たちが母犬に抱きついて眠る姿がありました。生後数日の生まれたての子犬はなんともかわいい。そんな彼らも、数ヶ月もすればコルカタの立派な野良犬として残飯を漁る術を身につけていくことでしょう。

 

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 犬だけでなく、コルカタは猫の多い街でもありました。特にムスリムが多く住むエリアと魚市場の付近には、こうした野良猫をよく見かけます。基本的にインドは猫の少ない国なのですが(ヒンドゥー教徒は猫を不吉な動物と見なしている)、コルカタは例外的に猫好きが多い街のようです。

 

 

コルカタでSIMカードをゲットする

 コルカタでまずやらなければいけないこと。それはSIMカードを手に入れることでした。ここ数年、インド人から譲り受けたAirtelのSIMをずっと使い続けていたのですが、どういうわけか今回は「圏外」状態が続き、ネットに接続できなかったのです。どうやらSIMの有効期限が切れてしまったらしい。というわけで泣く泣く新しいSIMカードの購入に踏み切ったのでした。

 

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 コルカタの安宿街であるサダルストリートには、ムスリムのアキラさんがやっているSIM販売店があって、そこで無事にSIMを買うことができました。アキラさんはとても親切で、アクティベーションもすべてやってくれるので心強かったです。この店の評判は韓国人、中国人をはじめ各国の旅人にも知れ渡っていて、日本人旅行者もよくSIMを購入していくとのこと。

 ちなみに彼の「アキラ」という名前は本名で、アルファベットの表記は「Aquil」。これを現地語読みすると「アキーラ」になるそうです。「日本人にもアキラって名前はよくあるんだよ」と教えると「へぇそうなの?」と驚いていました。

 

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 今回、僕が購入したのはVodafoneのSIMで、これは毎日1.5GBも使える84日間有効のネットプラン込み(通話は無制限で無料!)で750ルピー。インドはモバイル通信の費用が世界一も言われる安さで、特に長期旅行者には本当にありがたいですね。

 以前は、インドでSIMカードを購入しようとすると、スマホの設定に時間がかかったり、面倒な手間が必要だったんですが、今はパスポートを持っていけば、10分でネットに接続できます。しかし外国人旅行者用のSIMカードは有効期間が84日間と決められていて、その後は改めてSIMを買い直さなければいけないのが難点です。(コルカタ以外の街でも同じなのかは不明なので、注意が必要です。外国人にはSIMを売ってくれない店もあるようなので。一般の旅行者はデリー空港で購入するのが一番手っ取り早い方法です。空港のショップだと料金は割高になりますが、素早く確実にネットに繋がります)

 

 

安くて美味い街・コルカタ

 朝食はムスリム街にある食堂にふらっと入って食べました。牛スジ肉のスープ「ニハリ」と揚げたチャパティの「プーリ」。まさかインドで初めての食事が牛肉になるとは思いませんでした。コルカタはムスリムの人口も多いし、北西部のように肉食を忌避するタブー意識も弱いので、比較的簡単に牛肉が手に入ります。ヒンドゥー教徒、ムスリム、クリスチャンなどが混在するコルカタの多様性を象徴しているのかもしません。

 

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 「ニハリ」は肉がかなり硬くて噛むのには苦労しましたが、スープの味は良かったです。上からパクチーがまぶされているのも、味のアクセントになっていました。

 

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 ランチには魚市場にそばにある食堂でフッシュカレーを食べました。柔らかく煮込まれた川魚に切り身が非常に美味。付け合わせのナスの揚げ物もうまかったですね。これで60ルピー(90円)は安い。

 コルカタはどこで何を食べてもたいてい美味しくて、食には困らない街でした。魚介類を使ったカレーも美味しいし、ムスリム街ではビーフやマトン、チキンが豊富に揃っている。しかも安い。インドでも屈指の「安くて美味い街」だと言えます。

 

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 コルカタの花市場はとてもカラフルな場所でした。宗教儀式プージャに使うためのマリーゴールドの花飾りが大量に売りさばかれていく。人と花でごった返す場所でした。

 

 コルカタには4日間滞在して、街をひたすら歩き回りました。コルカタってこれまでは何となく避けてきたんです。大都会で、気忙しくて、苦手意識があった。トランジットとして通過するだけの街でした。だからコルカタの街をちゃんと撮影したのは、実質的に初めてでした。

 

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 この4日間でコルカタへの苦手意識は消えました。とても面白い、歩き甲斐のある街でした。でも自分が本当に納得できる写真が撮れたとは言えません。魅力的ではあるが、手強い街。そんな簡単に撮らせねぇぞ。もう一度出直してこい。コルカタの街にそう言われているような気がしました。

 

 

腰痛は指サックで治るのか?

 コルカタ最終日の朝。床に落ちたものを拾おうとかがんだ瞬間に、腰に激痛が走りました。久しぶりにギックリ腰になってしまったようです。この三日間、毎日3万歩近く歩き回っていたので、その疲労が腰に来たのかもしれない。やっちゃったなぁ、という感じ。腰がちょっと曲がっただけでも痛いのです。でもコルカタ最終日なので、ゆっくり休んでいる気持ちにもなれず、痛み止めのロキソニンを飲んで撮影を続けたのでした。

 

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 コルカタの路上にはいろんな物売りがいるのですが、このおじさんが売っていたのは、イボの付いた赤い指サックでした。手や指の特定の部分をこの器具で指圧すると、病気が治るという。「腰痛にも効くか?」と訊ねると、男は「もちろんさ」と胸を張るのです。10ルピー(16円)と安いので買ってみることにしました。

 

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 付属の説明書によれば、腰痛は手の甲の中央部分を指サックで指圧せよとのこと。しかし、いくら押しても痛みが和らぐ気配はなく、強く押しすぎたのか、痛みがひどくなった気さえします。何しろ10ルピーだから、まぁこんなもんでしょう。最初から期待はしていなかったし、特にがっかりすることもありませんでした。それにしてもインドにも中国医術のように指圧治療があるとは知りませんでした。

 

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 この指圧治療の考案者であるB.N.Das氏によれば「1日2回、5分押すだけでどんな病気にも効果あり」とのこと。頭痛や不眠、肩こりや腰痛だけでなく、甲状腺、糖尿病、心臓病、腎臓病にも効くと謳っています。これは明らかな誇大広告で、日本なら薬事法違反に問われかねない案件ですが、まぁ何しろインドなので、しかも10ルピーなので誰もクレームはつけないのでしょう。気休め程度にはなるのだと思います。

 

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 そんなわけで、4日間のコルカタ滞在を終えて、飛行機でオリッサ州に向かいます。

 朝のコルカタ空港はぼんやりと霞んでいました。この4日間、コルカタの空がすっきりと晴れることは一度もなく、いつもこんな調子の空気でした。デリーのような酷いものじゃないけど、大気汚染の影響も多少はあるのでしょう。なんとなく「霧のロンドン」的なミステリアスな雰囲気がありますね。

 というわけで、コルカタからオリッサ州のブバネシュワールに飛び、プリーからいつものようにバイク旅を始めることにします。