ラダック撮影ツアー(9月29日〜10月4日)でも訪れるヌブラ渓谷は、「最果ての地」と呼ぶにふさわしい辺境の土地だった。

 ラダック地方の中心都市レーからヌブラ渓谷に行くためには、高度5600mという高所にある峠カルドゥン・ラを越えなければいけない。カルドゥン・ラは「世界でもっとも高い場所にある車が通れる峠」として知られていて、多くの人がここで車やバイクを降りて記念写真を撮っていた。気圧は平地の半分しかないので、階段を少し上っただけでも息が切れてしまう。日陰には、7月でも雪が融けずに残っていた。

 ヌブラ渓谷は人口が少なく、集落がほとんどなかった。集落と集落の間が10キロ以上離れているような場所もざらにあるのだ。水が乏しく、緑が少なく、動物も少なかった。ときどきヤクが草を食んでいる姿があったり、ゾというヤクと牛をかけ合わせた家畜とすれ違ったりする以外は、ほとんど動物の姿がないのだ。動物も人間も暮らしていくのが困難な不毛の土地なのだろう。

 

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 とある集落のそばを通りかかったときに、村のおばさんに「お昼食べて行きなよ」と声を掛けられた。草原にテントが張られ、そこで女性たちがツァンパ(大麦焦がし)を作ったり、チャパティを焼いたりしている。どうやらダライラマ法王がこの地を訪れて説法を行うという一大イベントをお祝いするために、道行く人に料理を振る舞っているらしい。

 ツァンパを少し酸味のきいた野菜スープに浸して食べるのだが、握りこぶしぐらいの大きさがあったので、ひとつ食べただけでお腹が一杯になってしまった。おばさんたちは「もっと食べろ」と勧めてくれるのだが、どう頑張っても二個以上は食べられそうになかった。

 

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 村のお年寄りは写真に撮りやすかった。撮った写真をモニターで見せると、子供のように顔をほころばす。ピュアな反応が嬉しかった。

 ヌブラは美しい土地だった。特に光が素晴らしい。しかし「ここに住みたいか」と聞かれたら、答えはノーだ。僕にはあまりにも過酷すぎる環境だ。旅人が訪れるには素晴らしい場所だが、こんな何もない土地で冬を越すなんてことは、とても考えられなかった。

 

india18-85744集落で出会った男。雪解け水が流れる山間の集落で、菜種や小麦を植えて生計を立てている。標高は4000m。4400mを超えると植物は育つことができないと言われているから、このあたりが農業ができるギリギリの高さのようだ。

 

india18-86020村で出会ったおばあさん。畑仕事に行く途中なのだろう。農機具を入れた竹籠を背負って歩いていた。照れくさそうな笑顔がかわいかった。

 

india18-84663ヌブラ渓谷の集落で出会った女性は、干し草を背負って歩いていた。家畜にやるエサにするのだろう。牛や山羊たちの世話が農家の女性たちの重要な仕事になっている。

 

india18-89136牛の乳を搾る女性。野菜や穀物の栽培が難しいラダックでは、牛の乳から作るチーズやバターが貴重な栄養源になっている。

 

india18-87941村人が集まって新しいチョルテン(仏塔)を作るのだそうだ。チョルテンは村のいたる所にあり、仏教徒たちの強い信仰心を示している。

 

 

india18-88248おじいさんが持っていたのは携帯型のマニ車。1回まわすたびに1度お経を唱えたのと同じ御利益があるので、ラダックの老人は暇さえあればこのマニ車を回している。「余生は信仰に生きる」というのが、仏教徒のごく当たり前の生き方なのだ。