ビエントンからナムヌーンへ向かう道は、国道1号線沿いの旅の最後を飾るのに相応しい(?)悲惨なものだった。

 僕はこの道に「ゼブラロード」という名前を勝手に付けた。舗装された黒い道と、舗装の剥げた白い道がほぼ等間隔で続いていたからだ。これはたぶん雨季の激しいスコールによって流された土砂が、アスファルトも一緒に押し流してしまった結果生まれたのだと思われる。荒れた道を定期的に補修するような余裕は、ラオス政府にはないのである。

 仮に四輪駆動車に乗っていれば、このひどい道もそれほど問題にはならなかったと思うのだが、僕らが乗っていたバスは大型トラックの荷台を改造して客席にしたオンボロだったので、乗り心地は最悪だった。大きな穴ぼこにさしかかるたびに、バスの車体は嵐の中を行く帆船のように大きく傾いた。乾季だったからまだ良かったが、雨季だったらまず通れなかっただろう。

 そんな悪夢のようなゼブラロードを抜け、ムアンカムという町に着いたのは、出発から7時間後の午後1時過ぎだった。

 早朝からずっと何も食べていなかったので、とりあえず腹ごしらえをしようとバスターミナルの横にある食堂に入った。北ラオスでは旅行者が満足に食事を取れるような食堂が少なかった。地元民には外食をするような余裕も習慣もないので、麺料理のフーを出す店があればいい方だったのだ。

 ところが、この食堂にはフーがないという。「それじゃ何があるの?」と身振りで訊ねると、おばさんはテーブルの上に置かれた大きな鍋の蓋を開けた。そこには骨付き肉の煮込みが、どっさりと入っていた。

「ひとつ食べてみなよ」
 おばさんが渡してくれた肉に、僕は遠慮なくかぶりついた。肉は少し硬かったが、味は悪くなかった。おそらくは肉の臭みを消すために、ネギや生姜などと一緒に長い時間煮込んであるので、かなりスパイシーだった。

「これ、何の肉? 牛肉?」
 僕はガイドブックの最後に載っているフレーズ集を使って、おばさんに訊ねてみた。おばさんは首を振った。牛肉でもないし、豚肉でも鶏肉でもないという。

「じゃあ何の肉なのさ?」
 僕がもう一度訊くと、おばさんはテーブルの下を指さした。覗き込むと、そこには大きな白い犬がうずくまって昼寝をしていた。
「これ、ドッグなの?」
 僕は驚いて言った。
「イエス! ドッグ! ドッグ!」
 おばさんは勢いよく頷いた。なんと、僕がそれと知らずに食べていたのは、犬肉の煮込み料理だったのだ。

 あとで聞いたところによると、犬肉はこの地方では日常的に食べられている食材なのだそうだ。中国南部からベトナム北部にかけての山岳地帯では、古くから犬を食べる習慣があり、ベトナム国境にほど近いビエントンの町にもその習慣が伝わってきたらしい。

 結局、この食堂には犬肉の煮込み定食しか置いていないということなので、それを注文することにした。犬を食べることに抵抗感がないわけではなかったが、もう既にひとくち食べてしまったのだから後は同じだと思ったのだ。犬定食はたっぷりの肉にスープとご飯が付いて、わずか100円ほどだった。

 ちなみに犬肉には体を温める効果があって、寒い時期にはもってこいなのだそうだ。そう言われてみれば、移動中に冷え切った体が、少しポカポカしてきたようにも思った。

犬肉の定食。これで100円ほどだった。


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