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                        | ニラヴェリ近郊の村で。カメラを向けると何故か楽しそうに踊り出した。 | 
                       
                    
                   
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              セルバラージさんが僕に語ってくれた半生は波瀾万丈だった。彼がまだ二十代の頃、内戦が起こる前には、ニラヴェリにもヨーロッパ各地からバカンス客が訪れていたという。彼は学校で英語を教わったことはないのだが(だから読み書きはできない)、観光客に話し掛けることで英会話をマスターしたのだそうだ。 
             
             しかし、国を二分する内戦が始まると、旅行者の足はぴたりと途絶えてしまった。そこで彼はそれまでに貯めたお金を使ってビジネスを始めることにした。コロンボで漁船を何隻か買い付け、村の漁師を集めて共同で使うことしたのだ。 
             
             ところがこのビジネスがうまく軌道に乗った矢先、彼は突然逮捕されてしまう。そしてほとんど言いがかりのような容疑で、二ヶ月間も刑務所に入れられてしまう。多数派であるシンハラ人が支配するスリランカ政府が、セルバラージさん達少数派のタミル人に対して行った抑圧政策の一環だろう、というのが彼の見解である。結局、釈放してもらうために、彼は三十万円という大金を支払わなければならなかったという。 
             
             三年前にようやく内戦が終わると、外国人観光客もぼちぼち戻ってくるようになった。そこで彼は自分の漁船を使ってツアーガイドを始めた。他に商売敵はいなかったから、このビジネスも成功を収めた。月に五万円もの収入が得られるようになり、再び将来に向けて希望の光が見え始めた。 
             
「・・・というところにツナミがやってきたってわけだよ。家も船もエンジンも、何もかも壊れてしまったんだ。あとに残ったのはこの老いた体だけさ」 
 彼は自嘲気味に笑って、話を締めくくった。セルバラージさんの人生は波に揺さぶられる船のマストのように、常に不安定なものだった。平和が訪れたと思ったら、すぐに破局がやってくる。何かを築いたと思ったら、それがあっさりと崩されてしまう。一本の映画にして二時間にまとめられるのならそれもいいかもしれないが、実際にそのタフな人生を生き抜くのは、並大抵のことではなかったことだろう。 
             
             しかし僕は投げやりにも思える彼の口調の中に、一貫して前向きな、希望を捨てない姿勢を感じることができた。 
「戦争が続いているとき、それがいつ終わるかなんて誰にもわからなかった。そういう日々を毎日過ごしてきたんだ。それに比べたらツナミなんて一度きりのものじゃないか。壊れた家はまた建て直せばいいだけさ」 
             
            
             
             
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             ニラヴェリで津波被害を受けたのは、セルバラージさんのような漁民だけではなく、農民も同様だった。津波がもたらした大量の海水によって、多くの畑が使い物にならなくなってしまったのだ。ニラヴェリの町を歩くと、何も植えられずに放置されている畑が目立った。 
             
 しかしそんな中でも、仕事を再開し始めている農民もいた。数人の男女が農作業をしている畑のそばを通りかかったので、近寄って声を掛けてみた。 
            「もちろん、ここも海の水をたっぷりと被ったよ。だから、うまく育ってくれるかはまだわからないんだ」と農場主のダルマさんが僕に説明してくれた。「でも、このあいだ試しにタマネギを植えてみたら、ちゃんと芽が出て育ったんだ。ほら、あそこの小さな畑だよ。だから、今度は本格的にタマネギを植えてみることにしたんだ。いつまでも何もしないというわけにはいかないからね」 
             
 鍬を手にして乾いた畑を掘り起こしている男達の中には、十五歳ぐらいの子供もいれば老人もいる。汗を拭い、水を飲み、再び鍬を手にして掘り進む。男達が柔らかくした畑に、女達がタマネギの球根を植えていく。女達が身にまとっている原色に近い衣服が、強い日差しを受けて鮮やかに輝いている。 
             
             水は井戸から電気式のポンプによって畑に供給されている。この時期のスリランカ北部には雨が降らないから、灌漑施設は欠かせないのだ。 
「幸いなことに井戸水は無事だったんだ。飲んでみろよ、しょっぱくないから」 
             ダルマさんはそう言って、柄杓で汲んだ水を僕に渡してくれた。潮の匂いが微かに残ってはいたが、冷たくて美味い水だった。 
             
「タマネギ、うまく育つといいですね」 
             僕がそう言うと、ダルマさんは自信ありげに頷いた。 
             
             
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