アチェの笑顔 (インドネシア 2005)
 スマトラ島沖地震の津波被害をまともに受けた町のひとつであるアチェ州のムラボーという町を訪れたのは、2005年2月のことだった。ムラボーの町は完全に廃墟と化していた。空襲を受けた後のように、倒壊した建物と瓦礫が延々と続いていた。
 しかしムラボー近郊で復興作業に当たる人々の表情はとても明るく、生き生きとしていた。男も女も若者も年寄りも、誰もが額に汗しながら、陽気に働いていた。
 彼らの背後にある凄まじい破壊と、底抜けに明るい表情との途方もないギャップに僕は戸惑いを隠せなかった。その光景は自分が漠然と持っていた被災地のイメージとは正反対のものだった。アチェの人々の笑顔は、僕が今まで見てきた中でも、もっとも輝いていたのだ。

 彼らにはやるべき事がある。瓦礫を運び出し、倒木を取り除き、家を建て直し、仕事を再開しなくてはいけない。日常を回復するのは決して容易ではないけれど、額に汗して働けば確実に状況は良くなっていく。そういうはっきりとした手応えを感じているからこそ、人々の表情はこんなにも明るいのだろう。
 どんな境遇にあっても、明るく逞しく生きていく力が人間には備わっている。アチェの人々が僕に教えてくれたのは、そんなシンプルな事実だった。