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アラビア海に面したヴェラヴァルは、漁業と造船業で栄えている町だった。港に面したドックでは遠洋漁業に出かける大型船から、近海での漁に使う小型ボートまで、様々な大きさの船が造られていたが、どれも木製だった。造船所といえばシールドを手にした職人が火花を散らして鉄板を溶接しているような勇ましいイメージがあるが、この町の造船所では釘と金づちを使ってトンテンカントンやっているので、雰囲気は牧歌的だった。
ちなみに船体に使われているのはマレーシアから輸入した木材で、何週間もの漁に耐えられる大型船を作るには40人の職人と2年の歳月を必要なのだという。値段は2000万ルピー(4000万円)だそうだ。
バイクで漁港をひと回りしているときに、驚くべき光景に出くわした。一隻の漁船が今まさに沈没しようとしていたのだ。
その老朽船は夜のあいだに船底に穴が開いたらしく、そこから侵入してきた海水がもう甲板の上にまで達していた。船員らしき男たちがバケツで甲板の水をかき出したり、ロープで船体を引っ張ろうとしたりしているのだが、もはや手に負えない状況のようにも見えた。
「あんたも手伝ってくれ」
そう頼まれたので、僕も船員たちと一緒にえっさほいさとロープを引っ張ったのだが、いかんせん船が大きすぎるのでピクリとも動かない。まさに「焼け石に水」だった。
そうこうしているうちに、どこかからポンプが運ばれてきて、ようやく本格的な排水作業が始まったのだが、それでも船が沈没の危機から脱するのは難しそうだった。
大切な船が沈もうとしている。そんな大ピンチにもかかわらず、船員たちの顔には切迫感や悲壮感のようなものは浮かんでいなかった。「しゃーねぇなー。ま、ボロ船だったもんな」という感じで、完全に諦めムードなのである。おいおい、そんなことでいいのか。あんたたちの船なんじゃないのか?
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港町ヴェラヴァルでもうひとつ印象に残っているのは、いたるところに「野良系」の動物がいたことである。野良犬や野良猫や野良牛はもちろんのこと、野良豚や野良山羊までいるのだ(もちろんカラスも多いのだが「野良ガラス」という言葉は聞いたことがないのでリストには加えない)。この町には彼らにとってのエサとなる売り物にならない小魚や残飯なんかが豊富にあるのだろう。
しかしエサが豊富にあるからといって安閑としていられないのが、インドという国の厳しさである。誰にも庇護されず独力で生き抜かなければいけない動物たちの生存競争は、野生なみにシビアなのだ。ゴミ捨て場には豚が群がり鼻をひくつかせてエサになりそうなものを探し回っていたし、青空市場を徘徊する野良牛は例のごとく「牛たたき棒」で叩かれていた。魚市場の野良猫は売り子からおこぼれをもらうために媚びを売っていた。動物たちはそれぞれのやり方で厳しい世界を生き抜いていた。
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路地裏で見かけたのは「野良牛vs野良犬」の仁義なき戦いだった。両者は目の前の残飯をめぐって激しくにらみ合っていた。どちらもガリガリに痩せていて、なんでもいいから口に入れられるものを求めているように見えた。体格で圧倒する牛に対して、犬は持ち前の攻撃性を前面に出して一歩も引かない構えだ。
両者のにらみ合いはしばらく続いたが、決着はあっけなかった。勝ったのは犬の方だった。歯をむき出しにして「グルルー」と唸り声を上げた犬に対して、牛は文字通りしっぽを巻いて逃げていったのだ。
やはり草食系は争うのが苦手なのだろうか。
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