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インド最大級のトマト市場もまた、赤一色の世界だった。
アンドラプラデシュ州マダナパーリには、このあたりで収穫されたトマトが集められ、箱詰めされてから、次々とトラックで出荷されていく。1日に700トンから1000トンものトマトが取引されているというからすさまじい。もちろんそこらじゅうトマトだらけで、足の踏み場もないほどだった。
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トマトは朝早くに農家から運ばれてくる。それを仲買人が競り落とし、トラックに積み込んで、町へと運ぶ。主にチェンナイやハイダラバードといった南インドの中核都市へと出荷されるようだ。デカン高原中部に位置するこの地域では、トマトは一年を通して栽培できるので、市場も年中活気があるという。
手作業でトマトを選別するのは女たちの仕事だ。潰れていたり腐ったりしているものを除外するのだが、ゴミ箱がないのでトマトを地面にポイポイと捨てていく。そんなわけで地面は腐ったトマトだらけである。ときどきトマトで足を滑らせて転ぶ人もいるぐらいだ。掃除人はいるのだが、クズトマトの量があまりにも多くて、回収が間に合わないのだ。
トマトはひとつのケースにぎっしり詰めると30キロの重さになる。これが30ルピーから110ルピーで卸されるという。つまり1キロ当たり1ルピーから3ルピーほど。超がつくほど激安である。卸値だけでなく、小売価格もとても安かった。生鮮市場で売られていたトマトでもっとも安いものは1キロ5ルピー(8円)だった。
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市場の地面は大量のクズトマトで埋め尽くされていく。 |
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「今はトマトがたくさんとれる時期だから安いんだよ。夏になると1キロ25ルピーぐらいまで上がるよ」
と売り子の男が言っていたので、これはインドでも特別に安い値段なのだろうが、それにしても1キロ5ルピーってのはあんまりだ。これじゃ、せっかく作った農家も浮かばれないのではないか。
「日本ではトマトはいくらなんだ?」と聞かれたので、
「1キロ200ルピーぐらいかなぁ」と答えると、
「嘘だろう?」と言われてしまった。
確かに日本の食料品は高い。もちろんこれは日本の経済水準が高いからなのだが、ことトマトに関しては「インドが安すぎる」と言った方が正しいように思う。
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市場におけるトマトの扱いの「雑さ」にも、この安さが深く関わっていた。クズトマトがポイポイと地面に投げ捨てられるのは仕方ないにしても、売り物として箱詰めされているトマトの上にも平気で空き箱を落としてみたり、足で踏んづけたりしているのだ。「大切な商品を傷つけないように扱う」という気持ちは皆無である。ちょっと遠くにいる人を呼ぶために、トマトをひょいと放り投げる人までいる。要するにすべてが雑なのである。まぁそこがインドらしいといえばインドらしいところなのだが。
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「インド料理にはトマトが欠かせない」とハイダラバードから来たバイヤーの男が言った。「だから需要がたくさんある。もちろん健康にも良い。でもここだけの話、俺はあんまりトマトが好きじゃないんだ。どうしてかって? そりゃ毎日これだけのトマトに囲まれていたら、うんざりもするさ」
確かにインド人は実によくトマトを食べている。国民的野菜と言ってもいいだろう。
しかしインドにおけるトマトの歴史はさほど古くはない。南米原産のトマトがインドに入ってきたのは、19世紀になってからだと言われている。大航海時代にスペイン人が中米から持ち帰ったトマトは、まずヨーロッパで観賞用の植物として育てられ、その後イタリアでの品種改良を経て食用として普及すると、それがインドをはじめアジア諸国にも伝えられたのだ。
トマトだけでなく、トウガラシもジャガイモも中南米が原産だ。今、インドの食卓の主役となっている食材の多くが、実は何百年も前から続くグローバル化の結果もたらされたものなのである。
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