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  たびそら > 旅行記 > インド編(2015)


「甘党の国」を支えるサトウキビ


 インドのチャイはとにかく甘い。ミルクに茶葉と砂糖をぶち込んで、鍋でぐつぐつと煮立てて作るミルクティーは、暑さでへばった体に糖分を染み渡らせるのにはうってつけの飲み物だが、「微糖」「甘さひかえ目」「シュガーレス」といった言葉があふれる日本で暮らす我々の舌には少々甘すぎるようだ。


街角でチャイを売る屋台。甘くて濃いミルクティーが安い値段で楽しめる。この国には自動販売機なんていらない。

タミルナドゥのチャイ屋では、ミルクと紅茶を混ぜる時、高く持ち上げて豪快に混ぜる。「チャイは泡が立つほど美味いんだ」と店主は言う。


 インドのスイーツも激甘なものが多い。基本は牛乳と砂糖を混ぜ合わせてから加熱して固めたもので、見かけのバリエーションはいくつかあるものの、「とんでもなく甘い」という味の特徴はインド中どこへ行ってもあまり変わらなかった。「お茶もお菓子もできるだけ甘い方がいい」というのがインド人の嗜好なのだ。


レトゥーという丸いお菓子は、伝統的な粗糖「グル」と牛乳を鍋で煮詰めて手で丸めて作る。もちろんこれも激甘だ。


 インドは世界最大の砂糖消費国であると同時に、ブラジルに次ぐ世界第二位の砂糖生産国でもある。そもそも砂糖はインド人が発明し、世界に広まったもの。サトウキビの搾り汁を煮詰めて糖蜜をつくる方法は、紀元前2000年ごろのインドで最初に発見されたと言われているし、輸送に便利な粉砂糖を発明し、砂糖文化を世界中に広めたのもインド人だった。歴史的に見ても、インド人が筋金入りの甘党なのは当然なのである。

 数千年以上もサトウキビを作り続けてきたインドにあっても、栽培方法は昔からあまり姿を変えていないようだ。手作業で畑に苗を植え、3メートルほどの背丈にまで成長したら、鎌を使って刈り取っていく。機械化が進んでいないサトウキビ栽培は、今も昔も多くの人手を必要とする労働集約型産業なのである。


サトウキビを収穫する人々。サトウキビの原産地はニューギニア島周辺で、そこから東南アジアを経てインドに伝わったという説が有力だ。

収穫したサトウキビをトラクターに積み込む。サトウキビは収穫後すぐに味が落ちてしまうので、できるだけ早く製糖工場へ運んで加工する必要がある。


 インドにも良質な白砂糖を生産する大規模な製糖工場があるのだが、昔ながらの製法で「グル」と呼ばれる粗糖を作る零細工場も数多く残されている。グルはサトウキビの絞り汁を沸騰させて作る含蜜糖で、大工場で製造される白砂糖のように遠心分離機で糖蜜を分離しないので、サトウキビが持つミネラル分と濃厚な甘みを残した素朴な味わいを楽しむことができる。

 南部タミルナドゥ州はサトウキビの生産が盛んな州のひとつで、伝統的な粗糖「グル」を作る工場も各地に点在していた。

 グルの製法はとてもシンプルなものだ。収穫したサトウキビを大きな歯車の間に通して、樹液を絞る。その絞り汁を直径3メートルほどもある巨大な鍋でぐつぐつと煮立てて水分を飛ばし、凝固を進めるために石灰を加える。そのまま30分ほど煮詰めた液を、鍋から四角い木の容器に移し替えるのだが、このとき大鍋にロープを括り付けて4人がかりで引っ張り上げるのが面白かった。


大きな歯車の間にサトウキビを通して、樹液を絞る。

サトウキビの絞り汁を巨大な鍋で煮て水分を飛ばし、凝固を進めるために石灰を加える。

煮詰まった糖蜜を鍋から四角い木の容器に移し替える。

糖蜜をクワのような形の道具でゆっくりとかき混ぜながら冷やす。

十分に粘りけが出てきたところで、四角い穴がたくさん空いた木型に流し込む。

5分ほどおいて完全に固まると、木型をひっくり返し、木槌でトントンと叩いてやる。

これがグルの完成品だ


 四角い容器に入れられた糖蜜を、クワのような形の道具でゆっくりとかき混ぜながら冷やし、十分に粘りけが出てきたところで、四角い穴がたくさん空いた木型に流し込む。5分ほどおいて完全に固まると、木型をひっくり返し、木槌でトントンと叩いてやる。これでグルの完成である。

 グル工場の中はとにかく暑い。朝から晩まで燃料となるサトウキビの絞りカスを燃やし続けているから、まるでサウナにいるような熱気に包まれているのだ。特にかまどのそばで火の番をしている男は、半裸で汗だくになりながら休むことなく働いていた。僕はあまりの暑さと湿気で気分が悪くなってしまったのだが、彼はいつまでも平然とした顔で、火のそばに座り続けていた。


汗だくになって火の番をする男





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