インドの街角を歩くと、様々な職人に出会う。フリーハンドで広告を描くペンキ職人、ろくろを回して素焼きの容器を作る男、慎重な手つきで鋳造用の砂型を作る男、などなど。
自分に与えられた役割を淡々とこなしている。そんな男たちの働く姿を見るのが好きだ。仕事に打ち込む男たちの横顔には、誇りと充実感が漂っている。
倉庫の壁に広告を描くペンキ屋。下書きもせず、フリーハンドで一気に書き上げていく様子は、さすがプロフェッショナル。若干、字のバランスがいびつな部分もあるが、それはご愛敬。手書きの味である。
グジャラート州にある工房で、真鍮の水瓶づくりが行われていた。真鍮の板を石炭で熱し、大きな木槌で叩いて形を整えていく。今ではプラスチック製の安価で軽量な水瓶も普及しているが、耐久性や見た目の高級感は、昔ながらの金属製の方がすぐれている。
ブリキの板を切断する板金職人。手回し式のカッターを使って、ブリキ板を同じ大きさに切りそろえていく。このあと曲げと溶接の工程を経て、バケツやちりとりなどの日用品が完成する。
インド西部グジャラート州で寸胴鍋を作る職人。真鍮の鍋を金槌で叩くリズミカルな音が路地裏に響いていた。この寸胴鍋は牛乳を煮るときに使われるもの。農家から集めてきた牛乳を、ヨーグルトやチーズに加工する際に用いられる道具だ。
大きな鍋で牛乳を煮詰めて、スイーツを作る菓子職人。インドのスイーツは砂糖と小麦粉と牛乳をたっぷりと使った激甘なものが多い。
インド北東部ラジャスタン州で素焼きのカップを作る男。電動式のろくろを回して、粘土から陶器の形を立ち上げていく。何十年も同じ仕事を続けているベテラン職人の手仕事だ。
インド西部グジャラート州でお寺の鐘を作る職人。砂型に溶かした真鍮を流し込んで作る鋳造工場で、ムスリムの一家が働いていた。数百年前からこの街で受け継がれてきた伝統の技法だという。ムスリムの職人が作った鐘がヒンドゥー教の寺で鳴らされる。ここでは異なる宗教が穏やかに共存している。
自転車修理屋でスポークを調整する男が、なにげに渋イケメンだった。ランニングシャツ一枚で油にまみれて働く横顔がカッコ良かった。
染色工場で働く男が、化学染料で真っ赤に染まった綿糸の束を両手に抱えている。染料を固く絞って乾かすという単純作業を繰り返していた。
インド西部グジャラート州で布団を打ち直す職人がいた。長年使われた布団から綿を取り出して洗い、ほぐしてから再び布団に入れ、木の棒でバシバシ叩いて形を整えていく。見かけによらず体力勝負の仕事のようだ。