コルカタの詐欺師ラージ
インド東部の都市コルカタには、日本人旅行者に親しげに話しかけてきて「ガヤの近くの実家に一緒に行こう」と誘ってくるラージ(サーフ・ラージ・カーン)という詐欺師がいます。家族ぐるみで親しく付き合って信用させて、何日も後になってからあの手この手でお金をだまし取る(35万円も取られたという旅行者もいた)という狡猾な手を使ってくるのです。僕がこの「コルカタの詐欺師」についてブログに書いたのは2012年のことですが、この詐欺師は懲りることなく、警察に捕まることもなく、今もなお日本人旅行者を騙し続けています。
この「コルカタの詐欺師」の現在について詳しく知ることになったのは、数日前に一通のメールを受け取ったからでした。差出人は今インドを旅している日本人旅行者の母親Aさんで、「息子がコルカタの詐欺師に騙されて、行方不明になっている」という内容でした。文面が切実だったので、すぐに返事を書きました。
三井様のブログを拝見し、初めてメールさせて頂きます。
実は、インドへ行った息子と連絡が取れなくなり、色々とネットで検索をしていたところ、三井様の2012年のブログに行きあたりました。
『コルカタで実家へ行こうと誘う詐欺師がいる』と言う記事です。
息子からの連絡で、まさにそのような事を言っていたのです。
日本人の奥さんがいるインド人で名前は「ラージ」
野田に住んでいるが、ラマダンで実家に帰って来た。
と言うことで、すっかり信用してしまったようです。
6月10日にラージさんの実家に到着したようです。
6月13日のLINEを最後に全く連絡がつかなくなりました。
私が送ったLINEに既読もつきません。
ラージさんの実家は田舎で、ネット環境が悪く、家畜を殺して村中で食べるような田舎だそうです。
トイレも外(自然?の中)でするような電気もあまり使えないようなところなので、連絡が出来なくなるかも・・・と言っていたので、暫くは連絡が無い事を気にもしていなかったのですが、さすがに既読が付かないので、ラージさんの奥さんに聞けないか?とネットで「野田に住んでいるインド人ラージと結婚している女性」と検索したら、『詐欺師』と言う書き込みが複数出てきたのです。
インドの大使館へも問い合わせていますが、ラージさんの実家の場所がわからないので、困っています。
千葉県警へも連絡して、野田に住んでいる奥さんの連絡先を調べて貰っていますが、情報が少なすぎてわからないようです。
三井様がご存知のインドの情報がございましたら教えて頂けないでしょうか?
三井様のブログでは、その詐欺師は「ガヤの実家へ行こう」と誘っていると書かれていましたが、ガヤと言うところは、とても田舎ですか?
どんな事でもいいので、教えて下さい。宜しくお願い致します。
Aさん、はじめまして。写真家の三井です。
息子さんの状況はわかりました。
大変ご心配だと思います。心中お察しします。
状況から見て、息子さんが「ガヤの実家詐欺師」に騙されている可能性は高いと思います。
息子さんのこれまでの経緯は、僕がブログに書いた事件と酷似していますし、他にも同様の詐欺師に引っかかったという人は何人もいるようですから、息子さんと一緒にいる人物はおそらく旅人を騙す詐欺師でしょう。
もし、その「ラージ」という人物が詐欺師であるなら、日本人と結婚しているというのも嘘でしょうし、ラージという名前も偽名でしょうから、その線で日本の警察に捜査を依頼しても、犯人に行き当たるのは難しいでしょう。
インド大使館も現地警察も同様で、「ラージ」「ガヤ」「実家」といった断片的な情報だけで(しかもそれが本当だとは限らない)息子さんの行方を知ることは難しいと思います。
ワラにもすがる思いで僕にメールをしてくださったのはよく理解していますが、残念ながら僕が持っている情報はブログに書いてある以上のものはありませんので、いま息子さんの行方を捜す助けにはなれそうにありません。申し訳ありません。
しかし、僕が知る限りでは、この詐欺師は被害者の命を奪ったり、怪我をさせたりといったことまではしていないようです。ガヤの実家(と言っているだけで、本当にガヤなのかはわかりませんが)に仲良くなった日本人を連れて行き、そこで家族ぐるみで歓待し、すっかり安心させたところで、「実は家族が重い病気で20万円必要なんだ」といった作り話をはじめ、金をだまし取るというのが典型的な手口です。基本的には相手の善意につけ込む狡猾な手口なのです。
「助けてくれないか」という申し出を断られた場合、あるいは「警察に駆け込むぞ」などと抵抗された場合には、被害者のスマホや所持品を奪って家に軟禁するということもあるかもしれませんが、それも脅しであって、本気で暴力に訴えることはないと思われます。
詐欺グループにとっても、もし暴力に訴えればインド警察が本気で捜査することになり、それ以上詐欺行為を続けられなくなるばかりか、逮捕される危険を冒すことになるので、被害者をできるだけ穏便に(可能であれば、被害者が騙されたと思っていない状態で)解放したいはずです。
ですから僕の予想では、息子さんはしばらくすれば犯人グループと別れて、どこか他の町からAさんに連絡してくると思います。もちろん、すでにいくらかのお金を取られてしまっている可能性は高いですが、それは勉強代だと思って諦めるしかありません。
息子さんが無事かどうかわからない状況でただ待つというのは大変つらいことだと思いますが、今は息子さんが連絡してくるのを待つ以外にできることはないように思います。先ほども申し上げたように、日本の警察も、大使館も、インドの警察も、今ある情報だけでは動きようがありません。
今後、息子さんとLINEで連絡が取れたときに、息子さんがまだラージ氏に騙されているようでしたら、彼が詐欺師である可能性が高いこと、一刻も早く彼と縁を切って安全な場所に逃れなければいけないことを伝えてください。
そして、この事件が無事に解決したら、簡単でいいので、事の顛末をメールでお知らせください。
僕も自分が大好きなインドで日本人旅行者が詐欺に遭うという悲しい出来事は少しでも減って欲しいと思っていますし、そのためにブログ等で情報を共有して、注意を喚起したいと思っていますから。
突然の、唐突なメールにお返事いただきありがとうございます。
先程、8日ぶりに息子から連絡がきました。
パラナシと言う街に移動したそうです。
ラージさんの実家の最寄り駅は「PAHARPUR」という駅だそうでとても田舎でネットがつながらなかったとの事でした。
息子に、ラージさんが詐欺師であるかもしれないことを伝えました。
まだ被害にあっている実感はないようでした。
でも、野田に奥さんがいることや、実家に連れて行くこと、等々、被害に遭われた方々の状況に酷似していることを伝え、URLも送り、ラージさんの奥さんの名前を聞いたところ、ネットに出ている名前と同じ(ネットではレイコ、息子が聞いた名前は、佐藤れいこ)だったことから、自分で検索して詐欺師だと納得したようです。
それに、ラージさんだけでなく、サダムというインド人(写真)も一緒だと言うので、余計に心配になりました。
息子は、「悲しいけど詐欺師なんだね。明日離れます」と言ってくれました。
このことを知る前は、これからも行動を共にして、一緒にネパールか中国に行く予定だったようです。
今は、無事に二人から離れてくれることを祈るばかりですが、離れると伝えたことで、二人の態度が豹変するのではないかと心配しています。
インドの大使館の方も、色々と対応してくださって、コルカタの領事館へ連絡してくださり、情報をくださいました。
コルカタの領事館ではラージさんに関する情報があるようで、あまり素性の良くない人のようです。との連絡が入りました。
無事に二人から離れることができましたら、またお知らせいたします。
ご連絡本当にありがとうございます。
メールを頂いて、救われました。
ありがとうございます。
こんにちは。三井です。
息子さんと連絡が取れたんですね。無事が確認できて本当に良かったです。Aさんもほっとされているところでしょう。
Aさんからの情報によって、息子さんが騙されていると理解し、ラージ氏らと別れることに決めたのは賢明な判断です。
心配されているように、「離れると伝えたことで、二人の態度が豹変する」という可能性は十分にありますし、そこで「だったら今までの宿泊費やガイド代を払え」と言ってくるかもしれませんが、そこはうまく交渉して、最低限の「手切れ金」を渡すことで解決されるのがいいと思います。
バラナシは外国人旅行者がとても多い街ですし、日本人宿もあります。もし誰かに頼らざるを得ないときには、そういうところで日本人の協力を得るのもひとつの手でしょう。
ちなみにガヤはビハール州にある比較的大きな町ですが、その近郊の村が「とても田舎でネットがつながらない」ということはあり得ません。それは息子さんが外部と連絡を取れなくするために詐欺師がついた嘘です。実際には、ビハール州の農村でも(貧しくはあるけど人口密集地域でもあるので)携帯通信網は整備されているので、インドのSIMカードさえ持っていればいつでもインターネットに接続することができます。しかし息子さんはWifi環境しかなかったので、その嘘を信じてしまったのでしょう。そういう「現地を知らない旅行者には見抜けない嘘」を重ねていることからも、ラージ氏の正体が「親切を装って旅行者に近づく腹黒い詐欺師」だということがわかります。
とにかく息子さんが無事で良かった。
彼が無事にラージ氏と離れることができたら、またご連絡ください。
お返事が遅くなり申し訳ありません。
息子は、無事に詐欺師と離れ、今はネパールにおります。
詐欺師との出会いから離れるまでの経緯をお知らせ致します。
コルカタのニューマーケットのバスターミナルに到着し、安宿があると言うサダルストリートへ向かう途中に『サダム』と名乗る自称24歳の男に声をかけられたそうです。
サダムに安宿を紹介してもらい、チェックイン後に一緒に街へ出かけた所、近くに友達がいるからと『ラージ』を紹介される。
ラージは、ラマダンの終わりに開かれるパーティーに参加するため、日本から一時帰国しているとの事で、一緒にラージの実家に行こうと誘われた。
ラージの奥さんは日本人で、千葉の野田市に住んでいると言っていた。奥さんの名前は『佐藤れいこ』
ラージは、家族のために洋服屋で洋服等を買っていたので、何の疑いも無くラージの実家へついて行った。
ラージの実家の最寄駅は『PAHARPUR』と言う駅
ラージの実家と言っても、両親は現在コルカタに住んでいるので、従兄弟の家にお世話になると言うことで、連れて行かれた。
そこで、バイクを借りる事になり、従兄弟がバイク屋を紹介してくれることになった。
従兄弟に、バイクを借りるのにデポジットが必要だと言われ、クレジットカードで支払うことになった。
何故か2回カードを切った。。(1回目:\182,185- 2回目:\132,499-)
金額が大きかったので、驚いてラージに確認すると、1か月後には返ってくると言われた。
従兄弟にカードのレシートを要求すると、後で切ったものしかくれないので、最初に切った方も欲しいと言ったら、最初に切った方は、間違えてバイク屋に全部渡したので後でもらってくると言われた。
従兄弟は、信用できない感じだったので、ラージに、あいつは怪しい。本当にお金は返って来るのかと聞いたら、2か月後には返ってくると言われた。
さっきは1か月後だったのに何故2か月後か問いただしたら、ケースバイケースで遅くとも4か月後には絶対返って来る。もし、返って来なかったら、自分が日本に帰ったときに返しに行くと言われた。
従兄弟の家にお世話になる予定だったが、従兄弟の事が嫌いだったし、家も臭かったので、嫌だとラージに言ったら、ラージの実家に、ラージのお母さんの姉だか、妹だかが住んでいるのでそこに泊めてもらおうと言うことになり、その家に10日程お世話になった。
ラージのお母さんの姉or妹はとても優しくて良くしてもらった。
ラージの実家はリアルインディアン的生活で、インフラ整備が出来ていなくてトイレも外で済ますような状況で、電気もままならず、インターネットもつながらなくなり、外との連絡が取れなかった。
10日間お世話になった後、ラージとサダムと3人でインドを観光した後、中国に渡る予定で、ガザを出て、パラナシへ移動。
そこでネットが繋がり、詐欺師ではないかと母(私)に言われる。
最初は大丈夫と言っていたが、母からの情報と、自分の置かれている状況が似ていた事、送られたURLを見て、目の前にいる人物とネットで詐欺師と言われている人物が同じだったことから、認めざるを得なくなり、離れる決意をする。
しかし、ラージには悪い印象が全くなく、自分が信用していれば、ラージは自分を騙したりしないのではないかと思ったり、自分の中でかなりの葛藤があった。
しかし、バイクのデポジットの件といい、詐欺と認めなければならないと思い、翌日離れることにした。
早朝、黙っていなくなるつもりだったが、どうしてもラージの事を悪い人と思えず、悶々とした気持ちのまま離れるのも嫌だったので、ラージに「詐欺なのか?」と問いただした。
詐欺だとは認めなかったが、離れると言っても怒る事も無く、驚くほどすんなりと離れられた。
しかし、逆にそれが恐ろしくもあり、逃げるようにネパールに入った。
ネパールに入ってからも、ラージから「必ず返すから」と連絡が入る。
どこから返金されるのか?と聞いたところ、カード会社から返金されるとの事。
と言うのが、息子から聞いた話です。
息子と連絡が取れなくなって、インドの大使館へ連絡をして、やり取りをする中で、ラージが『サーフ・ラージ・カーン』と言う逮捕歴のある人物だと知らされました。
デリーのインド大使館から、コルカタの領事館へ連絡が行き、コルカタの領事館が警察に打電して、ラージの家に行って日本人がいないか確認したそうですがいないとの返事だったそうです。
日付からすると、息子たちがガザを出た日と警察が行ったと言う日が同じ日でした。
カード会社に支払いを止めるにはどうしたら良いか聞いたのですが、本人でないと答えられないとのことだったので、一般論でいいので、どういうやり方があるか教えて欲しいと聞いたところ、ケースバイケースで一般論はないと言われました。
ただ、本当に詐欺にあったと言うなら、被害届を出せばいいのではと言われました。
被害届は何処に出すのか聞いたところ、自分で調べろと言われました。
そこで、何度か相談していた千葉県警へ連絡したのですが、どこで出したらよいかは大使館に聞いて下さいと言われ、大使館に相談したところ、カード会社と良く相談した方が良いと言われました。
ただ大使館からのメールには「よくありますカード犯罪のうち、スキミング被害やネットでの不正使用については、どこで犯罪に巻き込まれたか分からないため、被害届自体の提出を求められないこともあります。今回につきましても、身に覚えのない請求とのことでカード会社に根気強く説明することが慣用かと思います。」
との返事もあり、今後どのように対応したら良いのか解らなくなりました。
スキミングされていないとは限らないので、カードを止める事は必須なのでしょうが、カード会社にどのように説明したらベストなのか、今日、弁護士さんに相談に行く事になっています。
長くなってしまいましたが、現在までの経緯です。
今後、被害者が出ないように、少しでもお役に立てれば幸いです。
ラージの写真、サダムの写真、最寄駅の写真を添付致します。
息子さんが無事にラージたちと離れることができたということ、まずはほっとしました。
クレジットカードの件は、僕にもよくわかりません。
そもそもクレジットカードを決済する権限が誰にあったのか、その点が不明です。
レンタルバイク屋でクレジットカードが決済されたのであれば(1回目:\182,185- 2回目:\132,499-というのは円ですか?それともルピーですか?いずれにしてもとんでもない高額ですね)、インドの地元警察に被害届を出した上で、警官を伴ってそのレンタルバイク屋に戻って交渉する、というのが返金される可能性がもっとも高い方法だと思います。
しかし、それには息子さんがレンタルバイク屋の場所を覚えていなければいけないし、自分が騙された土地にもう一度行くということにもなるから、実行するのは難しいでしょう。
詐欺師の私腹を肥やさないためにも、なんとかしてクレジットカード会社の支払いを止めてもらいたいところですが、そう簡単にはいかないと思います。
今回の場合「身に覚えのない請求」というわけではありませんし、実際に息子さんがバイクを利用したのは事実です。
バイクのデポジットとしては不当に高額であり、また「1ヶ月後には戻ってくるんだ」と約束していたという点を説明すれば、あるいは支払いが停止されてお金が戻ってくることもあるかもしれませんが、可能性はそれほど高くはないでしょう。
それにしてもラージという男は実に狡猾です。生まれながらの詐欺師ですね。
ラージは自分を「いい人だ」と信じ込ませながら、なおかつ相手から大金を騙し取るために、わざわざ「怪しい従兄弟」というキャラクターを設定し、汚い仕事はその「従兄弟」にさせて、もし悪事がバレてもすべて従兄弟のせいにすることで、相手に「でもラージはいい人だ」と信じるように仕向けているのです。
すべて計算ずくだし、すべて芝居です。もちろん実家の親戚たちもグルです。お金を騙し取るために、家族ぐるみで演技しているのです。
ラージのような詐欺師が一刻も早く警察につかまり、二度と同じ手口を日本人旅行者に使わないことを心から願っています。
今回のことで、Aさんも大変な憤りを感じておられるでしょう。インドという国の印象も悪くなっただろうと思います。それは仕方がないことです。
しかしインド人がすべて悪人というわけではありません。旅行者を騙す悪人はごく少数なのですが、残念なことにインドをよく知らない旅行者は、こうした詐欺師に声を掛けられる可能性が高いという現実があります。
僕もインドに対するポジティブな情報を発信すると共に、インドにはラージのような悪人がいるという事実も周知していかなければいけないと思っています。
お返事ありがとうございます。
昨日、弁護士さんの所へ行って来ました。
結論的に、詐欺を立証するのは難しいとのこと。
まだ息子がインドにいて、被害届を出せる状況で警察が動けば話は別だが、それでも、ラージ本人が詐欺を認める事は無いだろうとの事でした。
金額は、カード会社の履歴を見て分かったので日本円です。
この金額についても、弁護士費用や諸経費等のお金をかけてまで取り戻そうと思えるような高額でないところが、詐欺師の美味いやり口だと。
確かに、弁護士を依頼してインドへ行って・・・とそこまで出来ない金額です。
泣き寝入りするのを狙っているのですよね。
今でも、ラージから「9月14日に返金される」と連絡がくるそうです。
本当に申し訳ないけど、今はインド人が皆詐欺師に見えそうです。
息子も、このままだとインドを嫌いなままなので、この旅を終えて、しばらくしたら、いつかインドへ再度チャレンジしたいと言っています。
見ず知らずの私のメールに、丁寧に対応して頂き本当にありがとうございました。
息子と連絡が取れなかった期間、胸が張り裂けそうに心配でしたが、三井様とのメールで随分救われました。
是非ブログで紹介頂き、息子のような被害者が出ないよう、私のように、心痛める母親が出ないように、お役に立てれば幸いです。
ありがとうございました。
人柄で判断してはいけない
今回のメールのやり取りから言えるのは、「インドの観光地や大都市で日本語で親しげに話しかけてくる男たちの多くは、何らかの下心を持った怪しい人間だ」ということです。ラージ氏のような狡猾な詐欺師かもしれないし、法外な値段で土産物を売りつけてくる悪徳業者かもしれません。
もちろんインドにも信用できる日本語ガイドはいるし、まっとうな商売をしている人もたくさんいます。けれど、そういう人たちは路上ですれ違った旅行者に「いま何時ですか?」とか、「安くて良いホテル知ってるよ」とか、「俺には日本人の奥さんがいてさぁ、つい懐かしくなっちゃって」などと声を掛けることはありません。「観光地で日本語で話しかけてくるインド人はとりあえず無視する」というのが、インド初心者にとってもっとも無難な対処法です。
ときどき「本当に親切な人と、親切を装った詐欺師を見分ける方法はありますか?」と聞かれることがあるのですが、僕はいつも「そんなものはない」と答えています。天才的な詐欺師というのは、誠実な印象を相手に与える術を熟知しているし、実際に話してみるととても魅力的な人物であることが多いのです。相手を引き込む話術に長け、嘘で作られた魅力的な物語を自分自身で信じ込むことができる。そういう「根っからの詐欺師」の嘘を見破るのはきわめて困難です。まずはそのことを肝に銘じておくべきです。
ラージのような「天才的な詐欺師」や「生来の嘘つき」に騙されないために、我々がやるべきなのは「相手を人柄で判断しないこと」だと思います。温厚そうな表情や、誠実そうな眼差し、波乱に富んだ半生を語る口ぶり。それだけを見ると「こんないい人が嘘をつくはずがない」と思ってしまう。しかし、それが落とし穴なのです。
難しいことかもしれないけど、「この人は嘘をつくような人物ではない」という第一印象を疑ってみることが必要なのです。そのうえで「見た目に表れる人柄」ではなくて、「客観的な事実」を手がかりに判断を下しましょう。つまりその人物が目の前に現れた「状況」を冷静に振り返ってみるのです。
多くの外国人旅行者が訪れるコルカタという大都市で、初対面の人が自分を選んで親切にしてくれる理由があるのか。他でもない自分をわざざわ実家に招待して歓待してくれる必然性があるのか。その出会いは本当に偶然なのか、偶然を装った計画的なものではないのか。
これは前にも書いたことですが、大都市や観光地で「無償の親切」を受ける可能性はきわめて低く、「親切を装った詐欺師」に出会う確率の方がはるかに高いというのが、残念ながらインドの現実です。
もし、インドでごく普通の人々の親切心に触れたいのであれば、コルカタやデリーやバラナシやジャイプールではなくて、「地球の歩き方」に記載がないような田舎町に行くべきです。それが難しいのであれば、「現地の人の親切は額面通りに受け取らずに疑ってかかる」という態度を貫くべきでしょう。
安全な日本とは違って、インドは魑魅魍魎の世界です。性善説で乗り切れるほど甘くはありません。簡単に人を信じてはいけません。
でも、あなたがインド旅に慣れ、誰もが行く観光地や大都市を離れることができれば、きっと「本当のインド」が見えてくるはずです。外国人を騙す悪い輩(それはインドという迷宮における門番のごとき存在なのです)を軽くあしらえるようになれば、実はインド人の大半が親切で温かい人々だという事実に気付くことでしょう。
続報:ラージが慌てて半額返金してきた
(8月21日にAさんからメールが届きました。新たな展開があったようです)
息子の詐欺事件で、続報があります。
あの後、詐欺師のラージから息子に連絡があり、「君のママが、大使館や警察に連絡したり大騒ぎして、僕の家族が大変迷惑している。お金を返すからママを静かにさせてくれ」と言ってきたそうです。
息子曰く「すごく慌ててる感じだったけど、お母さん何かしたの?」と言うので「これじゃないの?」と三井さんがUPして下さったブログのURLを送りました。
息子には、三井さんのブログにUPすることを伝えていなかったのです。
ブログをみた息子は「これじゃ慌てるね(笑)」と納得していました。
三井さんのブログを引用して、色んな方が拡散して下さっているのも良かったのだと思います。
結果的には、7月23日に半額だけですが、息子の口座に『カーン・M・ナウシヤド』と言う名前で振り込まれて来ました。
あと半額は、少し待ってくれと言っているそうです。
大使館や、警察のHP等を見ても、特別な事は載っていないので、三井さんのブログのおかげだと思っています。
改めて、三井さんの影響力を感じました。ありがとうございました。
半額が返金されたとのこと。良かったですね!
「まず半額だけ返して様子を見る」というのがベテランの詐欺師らしいしたたかなやり口だと思いますが、とにかく半分でも返ってきたことは喜ばしいです。残り半分もきっちりと返金するようラージにプレッシャーをかけ続けるよう、息子さんにもお伝えください。
僕のブログが少しでもお役に立ったのだとしたら、大変嬉しいです。
しかし実際のところ、僕の影響力はそれほど大きなものではありません。
今回、半額返金にまでこぎ着けることができたのは、Aさんの迅速な行動と粘り強さがあったからです。それが警察や大使館を動かし、ラージにプレッシャーを与えたのです。これまでラージに騙された被害者は、おそらくAさんのように徹底的に戦わなかったのだと思います。行動する前に「どうせ返ってこない」と諦めてしまっていた。あるいは騙されたことにすら気が付かなかった。その結果、何年ものあいだラージのような卑劣な輩をのさばらせることになったのです。
今回の一件が、ラージとその家族に警戒感を抱かせることになったのは間違いありません。今後日本人を騙す際にも、彼らはより慎重にならざるを得ないでしょう。これでラージがきっぱり詐欺師家業から足を洗うとは思えませんが(ほとぼりが冷めたら、また新しいターゲットを狙ってコルカタの街に出没するつもりでしょう)、今回のAさんの対応が彼にダメージを与えたことは確かだと思います。
追記:2019年8月の時点でも、日本人が被害に遭っている!
2019年8月19日に、このブログ記事を見たという日本人の大学生から「コルカタでカーンという男から実家に行こうと誘われて、バイクのデポジットとして5万2000ルピー払ってしまったのですが、詐欺なんでしょうか?」というメッセージが届きました。ガヤの実家に連れて行かれて、「後で必ず返金するから」という約束で、クレジットカード決済で5万2000ルピーを支払ってしまったらしい。(右の写真は被害者が撮っていたカーンの顔です)
このブログ記事と全く同じ手口なので、詐欺なのは間違いありません。ラージとカーンとサダムたち詐欺師一味は、まだコルカタで日本人に声を掛け、カモを探しているということがはっきりしました。コルカタに旅行される方(特にマザーハウスでボランティア活動をしたいというインド初心者の大学生男子)は十分に注意してください。彼らは「親切なインド人との心温まるふれ合い」を求めているあなたの心の隙につけ込みます。人当たりが良く、フレンドリーで、チャイをご馳走してくれるかもしれませんが、すべては「大きな収穫」を得るための撒き餌なのです。
この件をツイートすると、すぐに何人もの人から反応がありました。実際にラージやサダムに声を掛けられて、一緒にチャイを飲んだという人もいました。
この人、昨年コルカタでバザールとかを案内してくれた日本語ペラペラのラージさんと写真が完全に一致した。この時はグループで行動していたというのもあったのか特に危ない目には遭わなかったがインドで日本語喋る奴は基本信じない方が良さげ。 https://t.co/IDvU6yz0HP
— カレー哲学たん(東京マサラ部首謀) (@philosophycurry) August 19, 2019
これらのツイートからわかるのは、詐欺師たちが「いい人」だということ。日本語がペラペラで、チャイをご馳走してくれて、日本の思い出を語る、人当たりの良い好人物だということです。いったん仲良くなってしまったら、「こいつらは本当は自分を騙している詐欺師なのではないか?」と疑うのは難しい。そんな巧妙で手間のかかることをわざわざやるとは思えないからです。そこが彼らの狙いなのです。
「詐欺師に騙される人も悪い」という人もいるけど、もちろん悪いのは詐欺師であって被害者ではありません。でも「事前に詐欺の実例を知っていれば、被害には遭わなかった」というのも確かなこと。だから周知徹底したいのです。「インドの大都市や観光地で親しく声を掛けてくる人は詐欺師だからガン無視せよ」と。
この大学生には「『このまま返金されなければ徹底的に闘うし、インド警察に動いてもらうぞ』という意思を伝えてプレッシャーをかけてください。そうすれば(ブログ記事にある大学生のお母さんのように)返金される可能性は高くなります。とにかく諦めずにしつこく食い下がってください」と伝えました。ラージやカーンのような卑劣な詐欺師を野放しにしないためにも、このまま泣き寝入りするのはダメだと思うからです。
コルカタの詐欺師たちは、日本人の若者のことを「すぐに人を信じるし、たとえ大金を騙し取られても反撃もしてこない絶好のカモだ」と思っています。完全に舐められているのです。彼らは自分自身の成功体験から、このような結論に達したのです。
ジャイプールでも同じような手口で詐欺に遭った日本の大学生がいました。コルカタ、デリー、ジャイプールは特に危険です。このような詐欺被害をもう二度と出さないためにも、この事例を一人でも多くの方に知ってもらいたいのです。
追記:詐欺師カーンの実家の場所と、仲間の顔が判明した!
2019年9月17日に、この記事を読んだIさんからメールをもらいました。彼も今年の2月に同じ手口でカーンたちに騙された経験があり、「これ以上、被害者を出したくない」という思いから、カーンの実家の場所と、カーンとその仲間たちの写真を提供してくれました。
今年の2月にインドを訪問をした際にカーンという男に全く同じ手口で騙されました。
男の写真を幾つか撮っていたのと、カーンの実家の住所のGPSデーターがわかっていますので(グーグルマップで表示する)、よろしければそれらの情報をブログ記事に追加で掲載頂けないでしょうか。
コルカタ駅からコダーマ駅というところで乗り換え、ガーパ(Gurpa)という駅で降り、車で10分くらいのところでした。コルカタから合計8時間くらいだったと思います。
写真も添付します。写真を撮ろうとすると嫌がられたり何かと理由をつけて断られたりし、なかなか正面から撮れたものがありませんでしたが。(思えばそれも怪しさのヒントでした)
以上三枚がカーン本人です。
赤いポロシャツを着た男はKausain Khanというカーンの親戚を名乗る男でした。
これがカーンの弟を名乗る男でした。
同じような日本人の被害者を増やしたくありません。
また、本人への牽制の意味合いと万が一にも返金に繋がるようプレッシャーを与えることができればと思っております。
実際今現在本人と連絡を取っていますが、当ブログ記事をかなり気にしているようです。
ちなみに手口としてはコルカタで別のインド人と知り合って仲良くなり、そこからカーンの親戚を名乗るものを紹介され、コルカタから電車で8時間くらい離れた、カーンの家に連れていかれました。
後は記事と全く同じに、数日間親切にしてもらい、バイクのレンタル代と妹の治療費としてそれぞれ10万ルピーずつをカードでキャッシングされました。
今考えるとなんて単純な手口なんだろうと、馬鹿みたいに思えて悲しくなります。
ただ、当時も少し怪しいかなという思いはありましたが、本当に困っていそうなところ、なんとか力になりたいという気持ちに負けて支払ってしまいました。
恐らく当記事を事前に読んでいれば、もう少しうまく対処できたのかなと思うと、この記事がケーススタディーとして広まることを願ってやみません。
追記:2020年2月に新たな被害が発覚!
2020年2月12日にまた新たな被害者からメッセージが届いた。
「昨年12月末にカーンの家に行きました。バイクデポジットで21万ルピーは必ず戻るという話で、22万ルピー払いました。後から三井さんのHPを見て詐欺と知りました。ちなみに、一緒の旅で日本人が奥さんがいるラージとサダムも一緒でした。3人は友達なので。」
詐欺師ラージ(とカーンとサダムたち)の手口はいつも同じだ。コルカタのサダルストリート周辺で日本人旅行者に声を掛け、自分は日本人の奥さんがいると安心させ、ガヤの実家に行こうと誘い、家族ぐるみで歓待して安心させた後、レンタルバイクのデポジットと称して高額のクレジット決済をさせて、返金の約束を反故にするのだ。
メンバーも同じで手口もいつも同じなのだから、情報が頭の片隅にあれば絶対に騙されないはずだ。でも実際には被害者が後を絶たない。結局「自分はそんな目には遭わない」と信じ切っている人だけが被害に遭い、後でネットで検索して、僕のブログに辿り着いて連絡をくれる、というパターンなのだ。
「インド人はみんな悪い人」と過剰に恐れる必要はないが「インド人はみんな良い人」と安心するのも問題がある。当たり前だがインドには良い人も悪い人もいる。そして悪い人は「観光地」と「大都市」に集中していて、不安げにあたりをキョロキョロしているインド初心者を狙って声を掛けてくる。
35万円を支払ってしまった被害から新たなメッセージが届いた。
「アドバイスありがとうございます。インド警察や大使館に報告していきたいと思います。但し、Katto Kahnは、村一番の金持ちで、自分を詐欺だと思っておらず、デポジットなのでいつか返せばいいんだろうと軽く考えているようです。HPの掲載ことも、開き直って友達に自慢しているだけでしょう。また、警察にも友達が多く、グルになっているようです。理解できないのは、クレジットで払ったデポジットをレンタル会社からどのようにお金をプールしているかです。レンタル会社を聞いても決して教えてくれません。」
それに対する僕の返信。
「村一番のお金持ちになったのは、あなたのような詐欺被害者から巻き上げたお金によってですよ。彼らは悪党で、お金のために親切を装っているだけなんです。彼らが本当にお金持ちなら、なぜ22万ルピーものデポジットを取る必要があるんですか。全部おごればいいでしょう?インドの本当のお金持ちは大切な客人からお金なんて取りませんよ。そんなセコい行為は名誉に関わりますからね。目を覚ましてください。
こうなった今でもなお、「村一番のお金持ちだから、いつか返せばいいだろう」なんて言葉を信じているなんて、あまりにもお人好しすぎます。だから騙されたんです。カーンと仲間たちは余裕なんてぶっこいていません。それは僕のブログを見て、慌ててデポジットの半額を返してきたという事実からもうかがえます。
クレジット決済に関わっているレンタルバイク会社ももちろんカーンたちとグルなんです。そもそもなぜガヤの田舎でレンタルバイクの会社なんてものが必要なんですか?詐欺被害者以外の誰がそんな会社を利用するのですか?そんなものはラージたちが作り上げた詐欺用の会社でしょう。
彼らの言葉を額面通り受け取らないでください。彼らの言葉は1から100までまったく信用できません。警察にも知り合いが多いのかもしれないけど、コルカタでも上の方に話が行けば、彼らはつかまるはずです。泣き寝入りせずに頑張ってください。」
究極の詐欺師は、相手に「詐欺に遭った」ということすら気付かせない。例えば御利益があるからと一千万円の壺を買わせる新興宗教があったとしても、買った本人が「それで健康と幸福が手に入った」と信じているのなら、一生詐欺だとは思わないだろう。ラージ一味にも同じ気配を感じる。こいつらいったい何者なんだ?
1週間もかけて村を挙げて歓待して、支払ってもらえるかどうかわからないバイクデポジット話を持ちかけて、成功すれば万々歳という、なんとも気が長いというかお気楽な詐欺師だと思う。どこまでが演技で、どこからがお金目当てなのかもよくわからない。たぶん本人たちもよくわかっていないのではないか。
少なくとも10年以上前からこの詐欺は始まっているが、最初は本当に仲良くなった日本人をガヤの実家に招待しただけだったのかもしれない。それがカネになるとわかったときに、徐々にカネ目当ての親切にシフトしていったのではないか。そして10年以上警察に捕まることなく、同じことを繰り返しているのだ(あるいは同様の詐欺手口は2,30年前から始まっているのかもしれない。それをラージが「継承」しているのかもしれない)。
「騙された」という事実を突きつけられた後でも、被害者はまだ「あの人たちは本当は悪人ではない。あんなに親切だったのだから。いつかお金も返してくれるだろう」と思っている。それだけラージ(とカーンとサダム)たちが良い人に見えたのだろう。敵ながらあっぱれである。でも騙されていますよ。
詐欺被害者から寄せられた文面を見て思うのは、「とてもいい人たちだ」ということ。人を疑わず、ずる賢さや猜疑心を持たずに言葉を額面通りに受け取ってしまう人が多い。心が汚れていないのは美徳だが、それでは一人旅は続けられないし、ましてや魑魅魍魎の国インドから無事に帰国することはできない。
僕は最初から観光地で話しかけてくるインド人はまったく信用しなかった。ガードを高く上げて試合に入ったわけだ。そして旅を続けるにつれて、観光客が集まる場所の外には、親切で温かいインド人がたくさんいることを知った。インド旅には経験も必要だ。最初はビビっているぐらいでちょうどいい。
追記:2022年12月時点の最新情報
2022年12月に3年ぶりにコルカタを訪れました。そのときも、やはり同じ詐欺師グループが同様の手口で日本人に声をかけまくっている、という事実を地元の人から聞きました。コロナ禍を経ても、まだ詐欺師たちは同じ手口を使って日本人を騙しているのです。みなさん、ご注意を!
【注意喚起】コルカタで日本語を話す詐欺師サダムの最新情報。最近、あちこちのSNSで顔を晒されているので、サダムたちの「狩り場」はサダルストリートから少し離れたインド博物館の入り口付近になった模様。そこで親切に声を掛けて、チャイをご馳走し、ガヤの実家に連れて行くというのが典型的な手口 pic.twitter.com/TZtKVbfCa5
— 三井昌志@一時帰国中 (@MitsuiMasashi) December 24, 2022
サダム以外にも、同様の手口を使う詐欺師は4,5人いる模様。自身が経営するGURIAという旅行代理店に連れて行って法外なツアーを組ませるサワリー、日本で詐欺事件を起こしインドに逃げてきたゴータム、流暢な英語で(逆に)日本人を安心させてサダムに繋げるアルサット。ヤバイ奴ばかりだ。 pic.twitter.com/00fmU9vtJ2
— 三井昌志@一時帰国中 (@MitsuiMasashi) December 24, 2022
追記:2023年12月時点の最新情報
2023年12月29日、新たな情報が寄せられました。コルカタの詐欺師たちは、まだ現役で日本人旅行者を騙すことに精を出しているようです。みなさん、ご注意を!
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