質問:幸せについて

私は現在29歳、メーカーにてエンジニアとして設計業務をしております。
本日、たまたま書店にて三井氏の写真集を手にとりました。
失礼な話、写真よりもプロフィールが気になって仕方ありませんでした。
帰ってからHPを見させていただきました。

私は、ここ一年くらい「幸せ」についてずっと考えっぱなし。
「日々何か達成感を得ること?」
「お金を持つこと?」
「家庭をもつこと?」
人それぞれあると思いますが、私はどれも当てはまりません。
『やりたいことやる』
具体的ではないですが、私の結論はこれに尽きます。
ただ、人間一人で生きていればこれでいいのでしょう。
親の立場になっていろいろ考えると、簡単に決断できなのが現状です。
三井氏はその部分はどのように解決されましたか?

もちろん状況は違いますが、写真で自分を表現したいという共通項。
何か糸口が見つかればと。
よろしくお願い致します。
 
 

三井の答え

 「写真よりもプロフィールの方が気になった」なんてと言われると、なんだかちょっと複雑ですが(ぜひ写真の方もじっくりご覧くださいね)、あなたの気持ちはとてもよくわかります。僕もメーカーのエンジニアとして働いていたことがあったし、20代前半を通じてあなたと同じようなことを悩み続けていたからです。
 
 幸せとは何なのか?
 人生の目的とは何なのか?
 こういう根源的な問いを自らに投じることは若者の特権だと思うし、そういう悩みを一度も持ったことのない人はいないと思うのですが、あまり深く悩みすぎるのは考えものです。
 
 というのも、こういう根本的な悩みには簡単に答えが出ないからです。そして簡単に答えが出ないようなことを悩んでいる人の「足」は、確実に止まっています。主観的には様々な角度から知恵を絞って悩み抜いているつもりなのですが、他人から見ると同じところをぐるぐると回っているだけにしか見えない。そういう状態に陥りがちです。
 
 僕もそうでした。大学を卒業して、メーカーに就職して、サラリーマンとして働いたけれど、ずっと「何かが違う」と感じていた。これが本当に自分のやるべき仕事なのか、進むべき道なのか、という疑問がいつも頭を離れなかった。
 
 就職してしばらくすると、エンジニアという仕事が自分に向いていないと気付きました。与えられた仕事をそつなくこなすことはできるかもしれないけど、どう考えてもグローバルな競争を勝ち抜く最新鋭の機械を開発するような力量はない。それは努力でどうにかなるものではなく、適性の問題でした。
 
 かといって「じゃあ本当にやりたいことは何なのか」と自問してみたところで、芳しい答えは返ってこなかった。自分の周りに深い霧が立ちこめていて、まったく見通しがきかない。手を伸ばして何かを掴もうとするんだけど、指先に触れるものは何もない。やり場のないもどかしさだけが募っていく。そんなとき、僕はよく会社の屋上にのぼって、工業団地の煙突から立ち上る煙を眺めていました。あまり明るくはない時代でした。
 

 
 すでに何度も書いていますが、そのあと長い旅に出たことが、僕を囲んでいた深い霧を晴らしてくれました。今まで経験したことのない濃密でタフで愉快な日々を無我夢中で生きて、いろんな風景や出来事をくぐり抜けて日本に帰ってきたときに、たまたま手の内に握りしめていたのが「写真」という表現方法だったのです。
 
 旅をはじめた2001年の段階で、もちろん僕にプロの写真家になれるような力量はなかったし、写真を仕事に結びつけるためのコネクションやノウハウも持っていなかった。写真家になれたのは結果オーライでした。幸運だったのでしょう。タイミングがよかっただけなのかもしれません。
 
 ただひとつだけ僕が胸を張って言えるのは、この10年のあいだ常に全力で旅をしてきたということです。足を止めずに動き続けてきた。いまある自分の限界の少し先に行こうと努力してきた。それができたのは、旅が好きで、アジアの辺鄙な場所が好きで、そこで生きる人の写真を撮ることが好きだったからです。心の底から好きだったからです。
 
 いま僕が自分に問うているのは、次のようなシンプルな(そしてありきたりな)言葉です。
「心から『今』を楽しんでいるか?」
「自分がなすべきことをしているか?」
「全力を出しているか?」
 
 これらの問いにおおむね「イエス」と答えられる人は、幸せなんだと思います。
 「幸せ」というのは、それだけを取り出してありありと実感できるようなものではなくて、「自分がなすべきことを、全力で、楽しみながらやっている人」が、疾走する自分と後ろへ後ろへと流れていく風景のあいだに、ふと垣間見るものではないかと思うのです。
 
 そしてその定義から言えば、「幸せ」になるのはさほど難しいことではありません。エンジニアにだって、公務員にだって、パン屋にだって、宅配便の配達人にだって、ブティックの店員にだって、寿司職人にだって、農家にだって、子育て中の母親にだって、きっと幸せを感じる瞬間が訪れるはずです。
 Are you happy?