日本は世界でも珍しい鉄道大国です。スピードと正確さ、そして運賃の面でも、バスや飛行機などの他の交通機関に対して十分に競争力がある。我々はそれを当たり前だと思っていますが、外国に目を向けると、決してそうではないことがわかります。特にアジアでは、維持管理に多大なコストがかかる鉄道よりも、バスや乗り合いタクシーの方が便利で安くて使いやすいという国がほとんどなのです。

 インドは比較的鉄道網が発達した国です。英国植民地時代に整備された鉄道インフラが継続的に使われているので、今でも非常に安い値段で移動することができる。これは庶民にとって大きな魅力です。しかし鉄道のスピードはおおむねバスよりも遅いし、遅延するのは当たり前。何よりもバスの方が本数が多いので、町から町まで、あるいは村から町までの中距離の移動はバスの独壇場になっています。

 それでも、鉄道には独特の旅情があります。下の写真のように海の上に線路が渡してあるような場所は、鉄道オタクではない僕でも「乗り鉄」してみたいなぁと思わせる魅力があります。ちょっと怖いですけどね。

 

india1202-4544インド南部タミルナドゥ州では、海の上を鉄道が走っている。スリランカに最も近い町ラメシュワラムとインド本土を結ぶのが、このパーンバン橋である。青い海の上を走る緑色の機関車のすぐ脇には、橋の補修工事をしている作業員が避難所に退避していた。ここでしか見られない光景だった。

 

india15-08306インド南部アンドラプラデシュ州の鉄道駅。鮮やかな緑色の列車に乗客が乗り込んでいた。莫大な人口を効率よく運ぶため、インドの鉄道網は英国植民地時代から整備されてきた。古い車体を使い続けているためにスピードは遅いが、その代わり料金はとても安いので、鉄道は今も昔も庶民の味方である。

 

india0903-8648インドの二等寝台列車の様子。三段ベッドが並ぶ狭くて暑い車内で、扇風機の風を頼りに寝苦しい夜を過ごす。「世界の車窓から」みたいな鉄道旅のロマンを感じる余裕はあまりない。

 

india0701-7522-2鉄道の役割は人を運ぶだけではない。さまざまな荷物を運ぶのも重要な仕事だ。インド南東部オリッサ州で貨物列車で運ばれてきた大量の石ころを積み下ろしている男たちがいた。全身が埃まみれになるタフな仕事だった。

 

india15-73442-2インド北部ウッタルプラデシュ州の鉄道駅にある貨物列車の荷運び場。列車で運ばれてきたセメント袋を積み下ろす作業が行われていた。天井から差し込む粗い粒子の光と、重厚な貨物列車の佇まいが印象的だった。

 

india20-19600インドの踏切でお馴染みの光景が、この「遮断機くぐり」だ。下手をすると15分以上待たされることもある踏切では、バイクや自転車はおとなしく待つことなく、どんどん遮断機の下をくぐり抜けていく。中には芸術の域にまで洗練されたくぐり方を披露してくれる人もいて、見ていて飽きない。

 

india15-59421インドの鉄道では、踏切の開け閉めやポイントの切り替え作業は、今でも手動で行われている。このようなデカいレバーを人が操作して、ポイントを切り替えたり、遮断機を開閉したりしているのだ。パンジャブ州の係員はターバンを巻いたシク教徒の男だった。なかなか絵になりますね。

 

india15-18661自由すぎるインドの猿が、線路に座り込んでみかんを食べていた。日本では線路内に理由なく立ち入ったら罰金を払わなければならないが、インドにはそのような罰則は(たぶん)ない。それにしても、この猿は大胆不敵だ。「列車がやってくるかも」というスリルを楽しんでいるのかもしれない。

 

india0701-9945インドの鉄道駅はかなり自由で、人や動物が線路を平気でまたぐ姿をよく見るのだが、豚はかなり珍しい。そもそも(キリスト教徒を除いて)インド人は基本的に豚肉を食べないので、豚そのものが少ないのだ。この野良豚さんの親子はのんきそうに歩いているけど、列車に轢かれないように気をつけてね。

 

india15-73797インドでは、踏切のないところで勝手に線路を横断している人をよく見かける。わざわざ自転車を担いでいるところを見ると、正式の踏切を通るのはよほど面倒なのだろう。日本だったら炎上間違いなしの案件だが、ルールや規則におおらかな(つまりいい加減な)インドでは、誰も何も言わないのである。

 

india19-13386インド南東部オリッサ州で、鉄道の安全点検を行う作業員。レールに歪みがないか調べているのだと思うが、こんな原始的なやり方で正確な測定ができるのか心配になってしまう。長年この方法で点検しているから大丈夫、ということなんだろうけど、ほんとに大丈夫なのかなぁ。

 

ba18-24267バングラデシュの鉄道に「定員」という概念はないようだ。帰省ラッシュの時期になると、屋根の上はもちろんのこと、先頭のディーゼル機関車にも乗客が乗り込んでいる。手すりがついているから、ここは乗ってもいい場所なのだろうか?まさかね。でも風通しも良いので、なんだか気持ちよさそうだった。

 

ba18-18448-2バングラデシュの駅のホームで列車を待つ男たち。列車は時刻表通りには来ないし、数十分遅れることもざらだから(何時間も来ないことだってある)、「まぁそのうち来るんじゃないの」って構えで、みんなのんびりと待っている。

 

ba04-8433バングラデシュの首都ダッカの線路沿いには、ボスティと呼ばれるスラム街が広がっている。ひっきりなしに列車が通るそばで暮らすのは危険を伴うが、家賃を払えない貧しい人々は、ここに住む以外選択肢がないのだ。

 

ba09-4815バングラデシュの首都ダッカを走る鉄道列車。線路のすぐそばにはスラム街のバラック小屋が建ち並んでいて、人と衝突する危険もあるので、列車は歩くのとあまり変わらないぐらいのスピードでゆっくりと進んでいた。先頭に立っている若者は見張り役だろうか?

 

sr08-8801スリランカは鉄道網が発達した国ではない。インドと同じように、英国植民地時代に鉄道インフラが整備されたが、バス網の発達と共に鉄道の存在価値は失われていった。それでも最大都市コロンボの駅からは、1時間に数本は鉄道が発着している。ディーゼル列車が派手な音を立て、住宅街を走り抜けていく。

 

my08-2359ミャンマーの鉄道は遅い。動いている時間よりも、止まっている時間の方が長いぐらいだ。駅に停車しているあいだ、列車の周りには、頭の上にスイカやお菓子を載せた売り子たちが集まってくる。さて、出発はいつになるのだろう。時刻表通りの正確な運行なんて、誰も最初から期待していないようだ。

 

my08-2379列車の窓から顔を出していたミャンマーの僧侶たち。ミャンマーは鉄道があまり発達していない国だ。列車は速度が遅く、本数も少ないので、長距離旅客の大半はバスを使っている。それでも鉄道には独特ののどかさがある。傷だらけの古い車体に、伝統的な僧衣が似合っているようにも思う。

 

ca05-2228カンボジアでは内戦によって鉄道設備が破壊されたため、線路はあるものの、列車はほとんど走っていなかった。首都プノンペンでも、一日数本の列車が通るだけなので、列車が通らない時間帯は、こうして線路の上に堂々とテーブルが置かれて、食堂になっていた。列車が来たら慌てて片付けるのだ。