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バングラデシュは人力に頼った国だが、それは裏を返せば「仕事の効率がきわめて悪い」ということでもある。
たとえば、なんてことのない安食堂に入ってみたところ、従業員が15人ぐらいいてびっくりする、というようなことがこの国ではよくある。確かに客で混み合っている食堂だから、ある程度の人手は必要だ。しかしいくらなんでも15人は多すぎる。
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安いが汚い大衆食堂。なぜか壁にブルースリーの写真が掲げられている。 |
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実際、その食堂の従業員の働きぶりは無駄だらけだった。テーブルに水を運んでくるのはまだ10歳にも満たない見習いの少年たちなのだが、彼らの動きがなんだかヘンなのである。まず一人のボーイが水の入ったグラスを3つまとめてドンと置く。喉が渇いている僕は、そのうちのひとつに手を伸ばそうとする。するとなぜか別のボーイがやってきて、グラスを3つとも持っていってしまうのだ。
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こんなに小さい子供が茶屋を切り盛りしていることもある。 |
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え? なんで?
呆気にとられていると、今度はまた別のボーイがやってきて、目の前に水の入ったグラスを4つ置いていくのだった。何がやりたいのかまったくわからん。しかしうかうかしていると、またすぐにグラスが下げられてしまいそうだったから、僕は慌てて水を飲み干したのだった。
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体重計屋。こんな商売が成り立つのも「ワークシェアリング」の国だから。 |
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ボーイたちはふざけているのでも意地悪をしているのでもないのだろう。彼らは彼らなりに真面目に働いているつもりなのだ。おそらくは「水を運ぶ係」と「水を下げる係」が分かれていて、両者の連携がうまく取れていないからこういうことになるのだと思う。ただ忙しそうに立ち振る舞っているだけで、実際には何の意味もないことを延々とやり続けている。「マンパワーの国」にはそんな側面もあるのである。
もし効率化を求めて(どこかの居酒屋チェーンみたいに)社員教育を徹底させれば、15人の従業員を5人に減らすことも十分に可能である。頑張れば3人でも回せるかもしれない。でもバングラデシュでは誰もそんなことは目指さない。彼らが目指しているのは効率化の逆、つまり「1人でできることを2人か3人で分担してやりましょう」というワークシェアリングの思想そのものなのである。
仕事という「パイ」は一人が独占するものではなく、みんなで分け合うもの。そうやって限られた仕事を労働人口全体に少しずつ行き渡らせないと、町に失業者や物乞いがあふれてしまう。バングラ人はそのことを本能的に理解しているのだ。
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自動車整備工場にも見習い工の少年たちが何人も働いていた。 |
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ダッカにはおびただしい数の行商人がいるのだが、彼らの働き方も効率的とは言い難かった。みんな揃って同じような商品を売っていたからだ。2009年にはみんなこぞってLED式懐中電灯を売っていたし、2010年はフワフワの耳当てがブームになっていた。2011年にはなぜだかよくわからないが、動物図鑑が大流行していた。不思議なことに、どの行商人も同じような動物図鑑を売り歩いていたのだ。
おそらく元締めがどこかから大量に仕入れてきた商品をさばかせているのだろう。他人と違う商品を仕入れて、一人だけ売り上げを伸ばそうとする売り子はほとんどいないのだ。小さなパイ(動物図鑑を欲しがる人なんて限られているはずだ)を多くの人間で分け合っている状態なのである。だから当然一人の儲けはとても小さい。
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バスターミナルや鉄道駅や市場など、人が集まるところには必ず行商人がいる。 |
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もしこの国にスーパーやコンビニが普及すれば、生活はもっと便利になるだろう。好きなときに好きなものが手に入るわけだから。それでも当分のあいだは、この国の小売り業の中心はバザールと個人商店と行商人が担うことになるだろう。大型チェーン店とバーコードとPOSは、便利さと引き替えに巨大な雇用を消し去ることになるからだ。
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ここでバングラデシュのあちこちで見かけた「マンパワーの国」ならではの光景を紹介しよう。
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こちらはバケツリレーの要領でどぶ掃除をしている人々 |
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重いコンクリートブロックを4人がかりで運んでいる。 |
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レールから脱線した貨車を押して動かそうとする男たち。さすがにこれはびくともしていなかったけど。 |
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