ヒンドゥー教最大の聖地であるバラナシは、インドらしさをもっとも濃密に感じられる街だ。この「インドらしさ」とはいったい何なのかを言葉で説明するのは難しいのだが、あえて言えば「美しい混沌」ということになるだろうか。
この街には実に様々なものがひしめき合っている。大小合わせて二千もの寺院があり、巡礼者が身を清めるための沐浴場(ガート)があり、数千年の歴史を持つと言われる火葬場がある。
バラナシはいつもどんなときでもバラナシだ。沐浴場で祈る人々、毎晩繰り返されるプジャの儀式、次々と生まれてくる野良犬の子供、火葬場から立ちのぼる白い煙。未来永劫変わらないかどうかまではわからないが、少なくとも僕が生きている間はバラナシはバラナシであり続けるだろう。
聖地バラナシで沐浴する女。朝日が対岸から顔を出し、女の褐色の肌を赤く染める。女は両手を合わせ、目を閉じて朝日を受け、頭の先までガンガーの水に浸る。茶色く濁った流れが、本物の聖水のように清らかに見える。ガンガーが最も神秘的な色合いを見せる瞬間だ。
聖地バラナシの朝は賑やかだ。太鼓を打ち鳴らすサドゥーと一緒に、巡礼者が大声で歌をうたっている。最後は全員が朝日に向かって両手をあげて、一日の始まりを祝う。
喧噪と静寂が隣り合っているのがバラナシだ。不思議な形の帽子をかぶったサドゥーが、ガンガーのほとりに座って朝日を眺めている。深い思索に耽っているようにも、ただ気持ちよくてひなたぼっこしているようにも見える。
ガンジス川の川面に浮かんでいるのは沐浴する(浮きヨガ?)男。水死体が流れてきたのかと一瞬ギョッとするが、これもまたバラナシで毎朝見かける光景。母なる大河ガンガーと一体になった男は、恍惚の表情を浮かべていた。
沐浴場で朝日に向かって祈る人の姿。何百年にわたって繰り返されてきた日常が美しい。
聖地バラナシのガート(沐浴場)で歯を磨く男。ガンジス川沿いのガートでは、祈りの儀式だけではなく、歯磨きや散髪や洗濯といった日常の風景も見られる。
聖地バラナシで毎晩行われている祈りの儀式・プジャ。ダシャシュアメード・ガートにブラマンの若者5人が並び、美しい所作でお香や灯明を捧げ持つ華やかな儀式だ。
バラナシのプジャで一度だけ行われる、大量の花びらを投げ上げる瞬間。ライトに照らされた花びらがはらはらと落ちてくる様子は、儀式の最後を飾るのにふさわしい光景だ。
バラナシ近郊の農村で出会った女性。色鮮やかなサリーが逆行を受けて輝く。今回の撮影ツアーでは、混沌と喧噪の聖地バラナシとは全く違う穏やかな農村の姿を見ることができた。
バラナシ近郊の村にいたヘビ使い。独特の笛の音で、壺の中にいるコブラを操る。インドに昔からいる大道芸人だ。コブラには聴覚がないので、コブラを操っているのは笛の音色ではなく、ヘビ使いの動きなのだそうだ。