写真を本格的に撮るようになってから、ずっとデジタル一眼レフカメラ一辺倒である。旅に出る以前にちょっとだけフィルムカメラを使っていたことはあるけれど、フィルムを10本か20本ぐらいしか使わなかった記憶がある。
現在使っているのはEOS-20Dである。EOS系デジタルカメラを使い始めてもう4年以上になるし、今では銀塩一眼レフカメラよりもデジタル一眼レフカメラの方が売れているという時代なので、「写真はデジカメが当たり前、銀塩は特殊」という考え方は僕にとって自明のことなのだけど、どうやらそう考えていない人もまだ多いらしい。今でもよく「デジタルカメラなのにこんなに綺麗にプリントできるんですね」という質問を受けることからも、それがよくわかる。
解像度だけを見れば、(A4サイズまでのプリントなら)35㎜フィルムと800万画素のデジカメの差はほとんどないと言ってもいい。デジタルカメラの画質はその程度まで上がっている。
旅フォトグラファーにとって、デジタルカメラのメリットは計り知れない。フィルムがないことによって荷物が少なくなること。バックアップを別メディアに取ることによって、データーを失ってしまうリスクを限りなく少なくできること。撮った画像をすぐにチェックできること。そして何よりもコストがとても安く済むこと。
結局のところ、このコストの問題によって、銀塩カメラは「特殊な用途」にしか使われなくなるだろう。今まで感材費という名目で莫大なお金が使われてきたのだが、それが全くゼロになってしまうことのインパクトは、アマチュアよりもプロの世界の方に響いているようだから。
しかし銀塩が特殊な存在になりつつある現在、逆に銀塩の価値はますます高まっているような気がする。少なくとも僕にとって銀塩への憧れはより強いものになっている。
それはあるいは「隣の家の芝生がよく見える」的に自分が持っていないものへの羨望なのかもしれない。しかしポジフィルムの持つ色の鮮やかさ、奥行き、粘っこさは、今のデジカメには決して出せないものである。そして今後しばらく(ひょっとしたら永遠に)出せないものなのかもしれない。今フラグシップ機と呼ばれる最高級デジカメの色を見ていて、そんな風に思う。
僕は一貫して「自分の写真の画質は銀塩カメラを使っているプロ写真家に到底及ばない」という認識の元で写真を撮り続けてきた。だからこそ、画質面でのディスアドバンテージをカバーするような写真を撮ることを心掛けてきた。簡単に言ってしまえば、「綺麗な写真を目指さなかった」ということになる。それがアジアの人々をスナップ的に撮り歩くことに繋がった、とも言えるのである。
もし僕が銀塩カメラを愛し、それをずっと使い続けていたら、今とは全く違う写真を撮っていたかもしれない。ツールというのは使いこなす人次第でどうとでもなるものだけど、そのツールが使う人を変えてしまうということだってあり得るのだ。
デジタルと銀塩。どちらを選ぶべきなのか。そう簡単に答えは出ない。