質問:写真に必要な感性とは?

三井さんが最初の旅で愛用していたEOS-D30。僕はそれよりも性能の良いカメラを使用しているにも関わらず、三井さんみたいな素晴らしい写真が撮れません。悔しいです。
 
最近までは、センサーがフルサイズじゃないからだ、購入したカメラの選択ミスだった、とまで考えていました。三井さんのブログを拝読して反省した次第です。。。
 
やはり写真は感性や才能であり、下手な人はなかなか上達しないものなのでしょうか。
僕が使用しているカメラは、NIKONのD3100という機種です。
 
 

三井の答え

 写真はカメラという機械を使って記録するものだから、カメラの性能差は作品の出来を大きく左右します。これは誰にも否定できません。同じ状況で同じものを撮った場合、カメラの性能が高い方が質の高い作品になります。
 
 これはゴルファーにとってのクラブ、テニス選手にとってのラケットみたいなもの。アスリートにとって良い道具を手に入れることは、良い成績を残すための必要条件です。でも、それだけで勝てる訳ではない。そうですよね?
 
 性能の良いカメラを手に入れることは、良い作品を撮るための第一歩です。予算が許す範囲で、出来るだけ良いカメラを手に入れてください。
 
 しかし、なにがなんでもフラグシップ機を買わなければいけないかというと、全然そんなことはありません。この10年のあいだ、デジタルカメラの性能はすさまじい勢いで向上し、全体の底上げがなされたので、最新機種同士の性能差はずいぶん縮まっています。「誰が撮ってもそれなりにきれいな写真が撮れる時代になった」と言ってもいいでしょう。だからまぁ、カメラ選びはかつてほど重要なファクターではなくなりつつあるのです。
 
 2001年と今とでは、デジカメを取り巻く環境はまったく違います。2001年当時30万円もしたカメラ(D30がそうでした)と、いま5万円で売られているカメラとを比較したら、全然勝負になりません。今のカメラの圧勝です。それはもう悲しくなるほどに。
 

 
 さて、それを踏まえた上で「写真にとってもっとも大切なのは感性か?」というご質問についてです。
 答えはイエスでもあり、ノーでもあります。
 写真にとって「感性」はもちろん大切です。でも「自分は感性がないからダメだ」と落胆する必要はありません。
 
 「感性」というと、ひと握りの才能あふれる者だけが持つことを許された神秘的な資質のように感じてしまいがちですが、決してそのようなものではありません。誰もが当たり前に持っている(けれど見過ごされがちな)ものなのです。
 

 
 写真における「感性」とは、自分が好奇心を向ける対象の「偏り」です。何が美しくて、何が醜いのかを判断する基準となるものです。
 
 「人はあれがきれいだと言うけれど、私にはどうしてもこっちの方が気になる」ということは誰にでもありますよね。その「気になるもの」を撮ればいいのです。「みんながきれいだと言うから撮ろう」ではダメです。誰かから押しつけられた基準ではなく、自分の心の声に従ってシャッターを切ることが何よりも大切です。
 
 自分の写真を向上させるには、ふだん無意識のうちに使っている「美の基準」を意識の元に引っぱり出して鋭く磨いていくことが必要なのです。
 

 
 先だって、2001年に撮った写真を振り返って、「とても下手だった。何も考えていなかった」と書きました。あれは謙遜でも何でもなく、実際にそうだったのです。ほんとに何も考えていなかった。自分が「美しい」と感じるものにだけカメラを向けていました。どのように心に響いたのか言葉では説明出来ないけど、とにかく「いい」と感じたらすぐにシャッターを切っていた。ブルース・リーの名言「Don’t think. Feel」のように。
 

 
 あのとき僕は仕事を辞めたばかりの26歳の若者で、海外旅行の経験も全くなく、英語だってろくに話せない状態で、言葉も通じない人々とたどたどしくコミュニケーションをとりながら、一歩ずつ前に進んでいました。10ヶ月に及んだ旅のあいだずっと心にあったのは、「この広い世界にたった一人で放り出された」という孤独感と、「カメラは自分の意思を人に伝える道具になる」という確かな手応えでした。
 

 
 あの写真に、稚拙ではあるけれど心に訴えかけるものがあるのだとしたら、それはきっと「今の自分にしか撮れないんだ」という切実な思いが込められていたからなのでしょう。
 
 「誰がなんと言おうと、自分がこの被写体を撮るんだ」という前のめりの姿勢が、「感性」の本質なのだと僕は思います。そしてそれは、あなたの中にもあるはずです。
 

 
 いま写真が上手く撮れないことは、あまり気にしなくていいのです。実際、僕も下手だったから。
 必死になって学べば、写真の腕は必ず上がります。写真術の本を読むのもいいし、写真教室に行くのも悪くないですよ。人の作品から構図や光の効果を学ぶことも重要だし、何よりもどんどん撮影して経験を積めば、失敗写真は確実に減ります。
 

 
 でも、それだけでは十分ではありません。たとえ写真が上手く撮れるようになっても、その写真が人の心に訴えかける力を持つわけではありません。
 
 壁を乗り越えるためには「情熱」が必要です。自分が心の底から求めているもの、本当に撮りたいものが何なのかを掴んで、それに向かって進まなければいけません。
 
 僕はこの12年そうやって写真を撮ってきたし、これからもそうしていくつもりです。