バイク旅を始めてから50日。インド南部のカルナータカ州にやってきた。
ずっと休む暇もなく、バイクにまたがってインドの大地を走り回ってきたので、腰と背中がひどく痛むようになった。この二日間はホテルでお休み中。これまでの疲れが一気に出たようだ。
今泊まっているホテルは小綺麗で広々としたダブルルームが550ルピー(1100円)とコストパフォーマンスが良くて気に入っているのだが、部屋が通りに面した側にあってバイク騒音やらクラクションがうるさかった。フロントかかりに「反対側の部屋に替えてくれないか」と言ったら、「夜になれば静かになる」と渋る。インド人は騒音に対する耐性がものすごく強いので、クラクションなんてどうってことないのだ。でも僕にとっては静香かどうかが非常に大きな問題なので、「どーしても替えて」と頼み込んでようやく替えてもらった。インドでは自己主張が何よりも重要で(誰もあなたの気持ちを察してはくれない)、時にはゴリ押しとも思えるほど強引に自分の要求を通さないと、物事は進まないのだ。
部屋を替えてもらったことで外の騒音問題は解決したのだが、それで静寂を得られるほどインドは甘くない。隣の部屋の客(あるいは従業員)が、朝と夜2時間ずつ大きな音で同じ歌を流し続けるのだ。30秒ほどで終わるパートを永久に繰り返すインド歌謡だ。毎日耳が腐るほど同じフレーズを聴いていても、飽きることはないらしい。
同じことの繰り返しにも飽きない。これもインド人の特性のひとつだ。
例えば食。インドの町を歩いていても、よほどの大都会に行かない限り、外食の選択肢は驚くほど少ない。基本、カレーしかない。あとは焼きめしと焼きそばを中心にしたチャイニーズぐらいしかない。そしてどの店に入ってもメニューと味付けはほとんど同じである。日本のラーメン店のように「店ごとに独自の特色を打ち出して客を呼ぼう」という考え方はない。
「飽きる」というのは、おそらく資本主義の発展に不可欠な感覚だ。僕らはすぐに飽きる。飽きるからこそ、次々に新しいヒットソングを求め、新しいスマホや、新しいカップ麺の登場を心待ちにする。おいしいと評判のパンケーキ店に長い行列を作る。僕らがもっとも苦手なもの、それは退屈だ。
インドの農村は確かに退屈だ。特別に目新しいものなどなく、だから僕のような異邦人がふらっと訪れると、村中の人が集まってくる。飽きっぽい人が都会へ出るのか、都会へ出ると人は飽きっぽくなるものなのか。おそらく後者だろう。
飽きることが奨励され、変化するもの、新しいものに価値をおく。そんな日本にいるとちょっと疲れる。
インドの農村は変わらない。不変ではないが、変化のスピードはすごく遅い。だからほっとするのかもしれない。
カルナータカ州第二の都市マイソールには、マクドナルドがあった。さすがは人口80万を擁する都会だ。オシャレなドライブスルーも付いていて、どこか祝祭的な雰囲気が漂っている。「週末は家族でマック」がインドの中流層のトレンドなのだ。
日本のマクドナルドが苦境に陥っているのは、日本上陸当時の「憧れ」や「特別感」が消え失せ、チープでジャンクなイメージが定着したからだろう。僕はチープなマックが決して嫌いではないが、「他ではなくマックを選ぶ理由」は何ひとつ思い浮かばない。
マイソールでは黄色い牛を見かけた。写真の色がおかしいんじゃなくて、本当にこういう色なのです。お祭りで使う色粉で染めているようだ。南インドの収穫祭「ポンガル」に関係している習慣だと思うけど、他の町では見なかったので不思議だった。
インドの「都会度」はヘルメット着用率でわかる。州都レベルの大都市ではみんなヘルメットを被ってバイクに乗っているが、これは警察がきちんと取り締まり を行って罰金を取っているからだ。マイソールの着用率は5割ほど。取り締まりはやっているが、あまり本気ではないということか。
ちなみにインドの田舎では誰もヘルメットなんて被っていない。だから僕のヘルメットを「なんで?」という顔で見てくる。いやいや、埃っぽいカルナータカ州では必須アイテムだと思うのだが。インド人は埃に強いらしい。
インド南部カルナータカ州で見かけた風力発電の風車。このような大型風車が何十基も林立する光景は圧巻だ。
インドでセブンイレブンを発見! まぁ、ただの安食堂でしたけど。看板のファミレス風イメージと汚い店とのギャップがありすぎ。
ノート代わりの黒板を抱えた少女が、まっすぐな瞳を向けてくれた。
タミルナドゥのチャイ屋では、ミルクと紅茶を混ぜる時、高く持ち上げて豪快に混ぜる。「チャイは泡が立つほど美味いんだ」と店主は言う。
南インド・タミルナドゥのお祭りに登場したのは、全身を真っ赤にペイントした神様。彼の役割は祠にこもっている女神を外に引っぱり出すことだが、そのためには酸っぱいライムを囓る必要があるらしい。このわけのわからなさがインドの祭りの魅力だ。
タミルの人々は本当に人なつっこい。「さぁみんなで写真を撮ろう」といって僕のカメラを奪い取り、こんな写真を撮ってくれる。なぜか子供を抱かされて。