日本にあるインド料理店に行くと、多くの場合ナンが出てきますが、インドの庶民が日常的に食べているのはチャパティの方で、インドではナンはやや高級品という位置づけです。チャパティは生地に全粒粉を使い、発酵させずにフライパンで焼きますが、ナンは小麦粉の生地をイーストを使って発酵させ、タンドール窯の内側にペタッと貼り付けて焼きます。
チャパティを作るのに使われている「アタ粉」というのは、日本で売られている全粒粉よりも、ふすま(胚乳部分と表皮部分)成分が多いようです。小麦粉の質的には低いわけですが、それがチャパティ独特の風味になるのでしょう。それを美味しいと感じるかどうかは、また別の問題ですが。
食堂でチャパティを焼く男。タンドール窯が必要なナンと違って、チャパティは熱した鉄板で焼くだけなので、とても簡単にできる。
こちらはインド北部ウッタルプラデシュ州の食堂で、タンドリー・ロティを焼く男。タンドール窯を使って焼き上げたロティは、外はパリパリ、中はもっちりで、チャパティなど足元にも及ばない絶品です。北インドを美味しく旅したければ、店先にタンドール窯が備えられている食堂を選ぶことがとても重要なのです。
インドで「ロティ」という言葉はパン類一般を指します。だからナンもチャパティも広い意味でロティの一種になるわけです。また、インドには各地方ごとにさまざまな種類の「○○ロティ」が作られています。もっとも有名なのは主に北インドで作られているタンドリー・ロティでしょう。
このタンドリー・ロティもナンと同じようにタンドール窯を使って焼くのですが、ナンとの違いは生地にあります。ナンの生地はマイダ粉(インドの中力粉)を使っているのですが、ロティには全粒粉を使っている場合が多いようです(地方によっては違うこともあります)。また発酵の過程も違っていて、イーストを使って発酵させるナンに対して、タンドリー・ロティにはベーキングパウダーを使う、という違いがあるそうです。
いずれにしても、タンドリー・ロティよりもナンの方が高級品で値段も高く、庶民の食堂ではあまり出てきません。ナンが食べたければ、それなりに高級なレストランに行く方が良いでしょうね。
インド中部マディアプラデシュ州の食堂でロティを焼く男。イタリアのピザ職人のように、生地を空中で回転させるパフォーマンスが自慢だが、見られて緊張したのか、失敗して生地を破いてしまった。そんなときの「いつもは上手く行くんだけどな」という苦笑いの表情もかわいかった。
インド中部マディヤプラデシュ州で、直径1mほどもある巨大な「マンダ・ロティ」を焼く職人たち。小麦粉の生地を薄く伸ばして、半球型の鉄板にのせて焼く。生地を破らずに焼き上げるには高い技術が必要だが、男たちは黙々と仕事に打ち込んでいた。
インド北部ウッタルプラデシュ州のベーカリーで焼いていた「タワラティ・ロティ」。外見は丸くて平べったいただのパンなのだが、ほのかな甘みがあり、ゴマの風味がよく効いていて、実に美味しかった。特に窯から出てきたばかりのタワラティ・ロティは、外はサクサク&中はしっとりで、エクセレントだ。
インド南部タミルナドゥ州の食堂で、パロタと卵焼きを焼いている男。 パロタはパイのように折り畳まれた渦巻き状の生地にギー(精製バター)を塗って焼くパンのこと。厨房からはバターが焼けるかぐわしい匂いが漂ってくる。
「パン屋は渋イケメン率が高い」というのは、知られざる「インドあるある」のひとつ。この若者もタンクトップにジーンズという飾らないスタイルなのに、目力と存在感ありすぎ。生地をこねたり伸ばしたりするのにも腕の力が必要なので、意外にマッチョな職業なのだ。
「インドで美味しい肉料理を食べたかったら、ムスリム街に行け」というのが(僕の個人的な)格言だが、「インドで美味しいパンを食べたかったら、ムスリム街に行け」というのもまた真実だ。イスラム教徒がなぜ美味しいパンを焼けるのかは謎だが、このムスリムの若者が焼くパンも最高にうまかった。
インド北部ウッタルプラデシュ州のパン屋さんがラスクを焼いていた。意外に思う人もいるかもしれないが、インド人はラスクが大好きで、町の雑貨屋でもよく見かける。かたく焼き締めてあるので日持ちするし、いつでもどこでも食べられるのが人気のようだ。店主が渋イケメンなのもポイントが高いですね。