暗くて狭い路地裏に、思いがけない「美」が潜んでいることがある。
無骨な鉄を扱う男たちの仕事ぶりに、命のかがやきを感じることがある。
一人一人の仕事が、この世界を支えている。
そう感じられる瞬間を求めて、僕は働く人々を撮り続けている。
昔ながらの糸車を回して染色した糸を巻き取っていく女の姿は、何気ない日常の中に輝きが宿る一瞬があるのだと教えてくれる。だから街歩きは面白い。だから旅はやめられない。
目が覚めるような青空の下で、男が脱穀作業をしていた。風の力を使って、収穫した米からゴミを吹き飛ばしているのだ。何十年、何百年と変わらない光景。だからこそ絵になる風景だった。
インドには椰子の木に登って、実を採集する専門の職人集団がいる。ロープと腕の力だけでするすると木に登り、腰につけたナタで椰子の実を切り落とす。ココナッツはインド人の生活に欠かせない作物だ。新鮮なジュースで喉を潤してくれたり、様々な料理に使われたり、油を絞ったりする。
男が花に糸を通して花飾りを作っていた。インド人にとって、花飾りは生活に欠かせないもの。プジャと呼ばれる宗教儀式の場で、神様に捧げるために使うのだ。
南インド・アンドラプラデシュ州で田植えの準備をする男。水面に生い茂った水草を取り除いてから、牛を入れて代掻きを行う。人力と家畜の力に頼った昔ながらの農法が、今も受け継がれている地域だ。
南インド・カルナータカ州の石切り場で、石灰石の研磨を行う男。高速で回転する研磨機を使って、石の表面をツルツルに磨いていく。完成した石材は、家や商店の床として使われる。年中暑い南インドでは「ひんやりとした床」が体感温度を下げてくれる「冷房」の役目を果たしてくれる。
けたたましい音を立てながら、真っ白な布を織る織機。色鮮やかなサリーの原料になるものだ。織機を操作するムスリムの男も、白い帽子を被り、白い服を着て、白いヒゲを生やしているのは偶然だろうか?
インドの街でよく見かける製粉所。古めかしい機械で小麦粉を挽く男は白い粉にまみれて働いている。
巨大な糸車で染色した糸を巻き取る。繊維産業が盛んなインド中部マハラシュトラ州では、こうした織物関係の工場が数多く建ち並んでいる。その多くは家族経営の零細工場だ。
インドの街の鉄工所で、巨大なボイラーの部品を組み立てている男たち。巨大で無骨な鉄の塊を黙々と溶接する姿に「男」を感じるのは僕だけではないはずだ。