世界中の子供たちを写真に撮ってきた僕が、一番かわいいと思うのは、やっぱり我が子の笑顔です。世間的にはこういうのを「親バカ」って言うんだと思うけど、まぁいいじゃないですか。大真面目に親バカをやっていられるのは、そんなに長い期間じゃないんだから。

 天真爛漫に笑ったかと思うと、急に意地悪なことを言ったり、ときにはお下品な言葉を連発したりと、いろんな表情を見せてくれる我が娘。時が過ぎていくのが惜しいような、そんな濃密な日々を過ごしてきました。

 旅に出ているあいだははずっと会えないんだけど、旅から戻ってくるとずっと一緒にいる。他の家とは違ってずいぶんメリハリのある親子関係だと思います。でもトータルで見ると、娘と過ごす時間は普通のお父さんよりもずっと長いはず。僕は胸を張って「イクメン」と言えるような父親じゃありませんが、それでも彼女の日々の成長をつぶさに見守ってきたというささやかな自負はあります。

 娘の髪はシャンプーのCMみたいにサラサラなんだけど、実は3ヶ月洗ってないんです。彼女はいろんなものが苦手なんだけど、特にお風呂がダメで、ずっと入浴していないのです。それでも変な匂いもないし、髪質だっていいのです。我々の常識に反することだけど、入浴って絶対に必要ってものじゃないみたいですね。チベットやネパールに住む山岳民だって、冬場はまったくお風呂入らないんですから。それでも大丈夫なように作られているようですね。

 先日、娘が通っている幼稚園の園長先生に頼まれて、幼稚園のイベントを撮影しました。秋晴れの美しい一日で、透明な光の中で園児たちの笑顔がキラキラと輝いていました。我が子でも他人の子でも、子供を撮るときに心がけなきゃいけないことは同じです。できるだけ被写体に肉薄して、その子が見せてくれる一瞬の輝きを捉える。とてもシンプルな鉄則です。

 子供の笑顔は――少なくとも5、6歳までの子供は――インドでもカンボジアでも日本でも変わらない。僕はそう感じます。就学前の子供たちは、誰もがイノセントな笑顔の持ち主なのです。

 子供たちが無垢でいられる期間は、たぶんそう長くはないでしょう。小学校に上がる頃になれば、変なピースサインを覚えたり、作り笑顔やふくれっ面や照れ隠しを始めるはずです。だからそうなるまえに、できるだけ長く我が子を見つめ、その日常を丹念に記録したいと思っています。それは今の僕にしかできないことだから。

 「世界で一番かわいい我が子を撮る」というのは、もちろん親バカの発露なのだと思います。だけどそれは将来の彼女に対して、「あなたは祝福されて生まれてきたんだ」というメッセージを届けることになるのだと思います。「僕らは君の表情や仕草のひとつひとつに驚き、微笑み、感動していた」という気持ちが、時を越えて我が子に伝わって欲しい。そういう願いを込めて、僕らはシャッターを切るのです。親バカ全開で。

 さて、冬は僕にとって旅の季節です。
 そう、スナフキンは再びムーミン谷を出て、どこか遠くに旅立つわけですね。

 娘ともしばしのお別れ。これは辛い。何度味わっても、慣れることのない辛さです。
「そろそろ旅に出ようと思うんだけど・・・」
 出発の前日に娘に告げたら、
「ねぇパパ、今度はイタリアに行ったらどう?」
 と言われました。どうやら彼女はイタリアという国に相当な魅力を感じている(家族の誰も行ったことがないのに)。パスタもピザも美味しいし、花の都フィレンツェは夢のように美しい。そういうイメージが5歳の娘にもちゃんとインプットされているようなのです。

「インドに行くんだよ」と言うと、
「えー、またインドなの。いったいインドに何があるっていうの?」
 と大人びた口調で言われてしまいました。

 インドには何があるのか?
 はっきりとしたことは僕には言えません。フィレンツェのように華やかな街はないし、カレーだって毎日食べていたら飽きてしまう。きっとピザが恋しくなることでしょう。

 でもインドには何かがある。それだけは間違いないのです。
 そしてどうやら今回もインドに呼ばれているようなのです。

 ・・・というわけで、12月13日から再び長旅に出ています。
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