「良い写真」って何だろう?
ひとことで答えるのはとても難しいが、僕はとりあえず「見る人の心を揺さぶる力がある写真」だと考えている。
どんなに綺麗に写っている写真でも、人の心に訴えかける力がなければ、後には残らない。
旅先で写真を撮るという行為は、「私の目にはこのように世界が見えている」という宣言に他ならない。
あの日、あの町で、僕の目にはこんな光が見えていた。それはただの光ではない。自分の心にひっかかる特別な「なにか」を含んだ光なのだ。
できることなら、この特別な光をカメラで捉えて、誰かに伝えたいと思う。あなたと共有したいと思う。
その気持ちが僕にシャッターを押させるのだ。
貨物列車で駅まで運ばれてきたセメントを運び出す男。明かり取りの窓から差し込む光が印象的だった。
「コシだよコシ。腰を入れなきゃいいモノが作れねぇんだ」インドの町工場で働くベテラン職人はそう言って絞り加工の機械に向かった。
粘土をこねて素焼きの水瓶を作るラジャスタンの男。何十年もお閉じ仕事を続けてきた人だけが持つ、分厚い手だった。
インドでもっとも食べられている肉はチキンだ。毛をむしったあとにターメリックを塗って黄色くなった鶏肉を店頭に掲げている肉屋。残酷といえば残酷な光景だ。
田んぼに肥料をまく男。赤いターバンが緑の田んぼの中で一際映えていた。
立派な髭とターバン。ただの靴屋の主人でさえ、絵になってしまうのがインドという国だ。