質問:値切り交渉術

こんにちは。いつも拝見させていただいています。今日は、外国の物価のことについてお尋ねしたく、メールさせていただきました。
 
先日、テレビに、エジプトを旅するイギリス人旅行者が映っていました。彼女は、民族衣装屋で、8千円と言われた服を、いきなり千円に値切り、「だめなら他の店で買うから」と言い張って、結局、千円で服を買いました。値切るというと、半額くらいから、と漠然と思っていた私は、その値切り率に驚き、やっぱり?国の、あってないような値段の仕組みには慣れないなあ、と思いました。
 
一円でも安く、という姿勢で長旅を続けるのは、何だか疲れるような気もするし、かといって、ぼったくられているのをわかっていながらお金を払うのも府に落ちない気がします。その中間ぐらい、というのがベストなのでしょうが、交渉の程度がよくわかりません。三井さんは、どのような値段交渉をされているのでしょうか。
よろしくおねがいいたします。
 
 

三井の答え

 ものを値切るのって面倒ですよね。
 僕もずいぶん長いこと旅をしていますが、「値札のない文化」にはなかなか慣れません。
 
 特にアラブ圏の市場(スーク)は定価がないことで有名ですが、東南アジアやインド圏の市場にもやはり値段はありません。と言っても、売値の5倍とか10倍といった「法外な」値段を吹っ掛けてくるのは、観光客相手の土産物屋に限られます。
 
 地元民相手に野菜や果物を売っているような市場では、多少値引きされることがある程度です(国にもよりますが)。だからまぁ、それほど悩むことはないでしょう。
 
 しかし、旅行者が買うものは土産物、しかも地元の工芸品のようなものが多いですよね。手が込んでいて高そうにも見えるけど、相場がどの程度なのかさっぱりわからない、というものを買わなければいけないわけです。
 
 服やアクセサリー服飾品は日本でも値段があってないようなものですし、絨毯や骨董品、祈祷用のお面の類にいたっては、よほどの目利きでない限り、適正な値段がぱっとわかる人なんていないと思います。
 
 だから、我々素人はできるだけ手間をかけて、何軒もの店を回るようにしたいものです。観光地というのは、似たような品揃えの店がうんざりするほどたくさん軒を連ねているものですから、まず自分の欲しいものがどの程度まで値切れるのか、お店まわりをして見極めればいいのです。
 
 その際に重要になるのは「自分からは絶対に希望価格を言わない」ということです。
「ハウ・マッチ?」
 とあなたが店員に値段を訊ねたとします。
「10ドル」
 と相手が答えます。もちろん、これは言い値であって、ここから交渉が始まります。
「ディスカウント?」
 あなたは言います。まけてくれない?
「ハウ・マッチ・ユア・プライス?」
 きっと店員はあなたにこう質問するでしょう。いくらなら買うんだい?
 
 値切り交渉のポイントは、ここで、
(そうだなぁ、10ドルって言っているんだから、半分の5ドルぐらいかなぁ)
 などと考えて、安易に
「5ドル」
 などと言ってしまわないことです。一度自分の希望価格を口にしてしまうと、その値段まで下がったら(まず間違いなく下がります)、買わなければいけないような雰囲気になってしまう。店員はそれを狙っているわけです。
 
「ノー! ハウ・マッチ・ユア・ラストプライス?」
 毅然とこう言いましょう。あなたはお客さんなのですから、交渉の主導権は本来あなたにあるべきなのです。だから、あくまでもこの店のラストプライスをしつこく尋ねればいいのです。ときには「それじゃ他の店で買うわ」という演技も必要になるでしょう。
 
 これをいくつかのお店で繰り返せば、だいたいの相場がわかってきます。
 要は「交渉には時間と手間を惜しんではいけない」ということです。値切り道に王道なし。地道にやりましょう。
 
 もっとも、僕が旅先で常に「ギリギリの交渉」をしているかというと、決してそんなことはないのです。自分が納得できるような値段であれば、それが外国人料金だとわかっていても払ってしまうことも多いのです。
 
 最初の頃はそうではありませんでした。「一円でも安く」という意気込みで、肩をいからせながら交渉していたように思います。
 
 現地の人になめられたくない。他の旅行者に「こいつは旅の初心者だな」と思われたくない。
 そんな気負いが、とことんまで値切るということに繋がっていたのかもしれません。
 
 でも、質問者の方もご指摘の通り、値切り交渉っていうのは、やりすぎると疲れてくるものなのですね。「時間と手間を惜しむな」と書いたけれど、それがエネルギーと時間の無駄遣いに終わるということもあります。
 
 だから今は適当なところで切り上げて、もっと別のところにエネルギーを使うようにしています。