10月1日から日本人旅行者はミャンマー入国の際にビザが不要になった(1年間限定の措置)し、バングラデシュも空港でアライバルビザが普通に取れるようになったようだ。「近くて遠い国」が「近くて近い国」になりつつある。インドもアライバルビザ(60日間有効)が取れるようになったらしい。アジアを愛する旅行者にとって、これは素晴らしいニュースだ。

 日本のパスポートは世界でももっとも「強い」という。ビザなしで渡航できる国や地域は190カ国で、これは世界一なのだそうだ。日本の外交努力の成果だけど、その恩恵を十分に生かせていないのも事実だ。アジアで出会うのは韓国人、台湾、中国人旅行者ばかりで、日本人は本当に少なくなった。テレビでは「日本すごいぞ!」番組ばかり。本当にこれでいいんだろうか?

 日本のことが大好きで、日本サイコーって心の底から思えるのであれば、それでもいい。でもあなたが健全な好奇心と批評的精神を持って生まれてきたのであれば、一度ぐらいは日本の外に出て、自分の常識や価値観が根底から揺さぶられる経験をしておくのもいい。それが可能なパスポートがあるんだから。

 今、韓国人や中国人やタイ人が海外旅行に熱心なのは、一種の飢餓感があるからだと思う。わずか一世代前は自由に海外を旅するなんて夢でしかなかったから、彼らは「自分の外の世界を体験したい」という憧れを強く持っている。なんでも見て、なんでも吸収してやろうという貪欲さがある。

 かつての日本(たぶん1990年代ぐらいまで)もそうだった。外国に対する「飢え」があった。そのときは「どうしても外国を知りたい人」だけではなく、「たいして外国に興味がない人」まで旅に出かけた。でも、その過程で思いがけない発見もあった。自分が「井の中の蛙」だと知るきっかけになったのだ。

 海外旅行は危険だし、お金もかかるし、面倒臭い。確かにその通りだ。でもLCCの普及やホテルのネット予約、スマホのルート検索などによって「海外旅行の敷居」が下がっているのも確かだ。行こうと思えば行けるよ(しかも、かなり安く)。それでも「行かない」という選択肢を選ぶのはもったいない。ほんとに、もったいないことだと思う。

 

india18-33836「美しい景色を見て、美味しい物を食べたい」というのが、多くの旅行者が求めるものだとわかってはいるけど、こういう「自分の国ではまずお目にかかれない人物」に出会うために旅したっていいと思う。カッコいいし、ぐっとくるよね。少なくとも僕はそうだ。こんな男に会うために、インドを旅している。

 

india18-38984インドの街角でよく見かける極狭の雑貨屋。タバコやパーン、スナック菓子などを売る半畳ほどの店だ。インドでは、こうした個人商店があちこちにあるから、コンビニや自動販売機は要らない。それにしても狭い!

 

india18-39056インド西部グジャラート州で豆を煎る職人。路地裏にある狭い店で、炭火を使って煎る豆は、香ばしく懐かしい味がする。汗だくになる大変な仕事だ。

 

india18-39912インド西部グジャラート州の町工場で、グラインダーを使って歯車を削る男。外見に気を遣っているようには見えないのに、何気にオシャレだ。ポロシャツとバンダナの色の組み合わせとか、実は考えているんだろうか?

 

india18-09086インド南東部オリッサ州で渡し船を押す男たち。湖の対岸にある村に行くために、小さな手こぎボートが往復している。乗客だけでなく、荷物やバイクまで運んでしまう「生活の足」だ。

 

india18-12144市場は渋イケメンの宝庫だ。南インドタミルナドゥ州の市場で、重い荷物を肩に担いで歩く肉体労働者の笑顔がすてきだった。胸板が厚く、ヒゲがよく似合っている。十字架の入れ墨はキリスト教徒の証だろうか。

 

india18-40282インドの古い街を歩いていると、つい目を向けてしまうのが「扉」だ。木のドアに取り付けたかんぬきを南京錠でロックするきわめてシンプルな扉。セキュリティーは低そうだが、趣があっていい。盗られて困るようなものも、あまりないのだろう。

 

india18-40880オートリキシャの運転手は、おそらく農家の次に多い職業だろう。インドのありとあらゆる町や村に、オートリキシャが走っている。何十年も使われたボロの車体でも、ドライバーにとっては苦楽をともにした相棒だ。年季が入っているのが、またカッコいいんだよね。

 

india18-42836インド西部グジャラート州で出会った羊飼いの男。白い民族衣装と緑のターバンが素敵だったのでカメラを向けると、杖をバトントワリングみたいにぐるぐると回してポーズを決めてくれた。羊が草を食べている暇な時間に身に着けた特技のようだ。見た目とは裏腹に、なかなかお茶目なおじさんだった。

 

india18-50271インドで出会った男が大切にしていたのが「ナショナル」の古いラジオ。中国製コピー商品ではなく、本物の「Made in Japan」だ。「全然故障しないから何十年も使っているよ。メイド・イン・ジャパンは優秀だな」。そう言われると、ちょっと嬉しくなる。特に日本製品が少ないインドのような国では。