最近の日本の若者の「海外旅行離れ」や「内向き志向」が本当なのかを検証したブログ記事が興味深かった。結論としては「海外に行かない傾向が 20代の若者において突出して高いとまでは言えず、20代の人口が20年前と比べて36.1%も減少していることが、出国者数の減少の原因とみなすべき」だと。なるほど、海外に目を向ける若者の割合が減っているわけではなく、少子化の結果なのか。

 僕も「20年前と比べて、インドで日本人の若者に出会うことが減ったなぁ」という印象を持っていたが、これは若年層の人口そのものが減ったことで説明できるのだろう。今も昔も海外を旅する若者は少数派だし、特にインドを長期で旅する人は滅多にいない。巷でよく言われるような「ネットの普及によって若者が内向きになっている」という説明は単純すぎるようだ。

 

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 数はともかく、旅人の質が変わったのは確かだ。2,30年前はインドを何ヶ月も旅する旅行者といえば長髪に無精髭、だぶだぶズボンにニット帽、首には数珠をぶら下げた「ヒッピースタイル」の男性ばかりだったが、今ではバラナシでもそういう「いかにもな旅人」を見かけることは少なくなった。

 その代わりに多くなったのが、ヨガやインド料理にはまって、それを極めようとやってきた女性だ。ヒッピー的な不健康主義とは真逆で、健康的で明るくて、インドを心から楽しんでいる。「日本社会からの逃避」ではなく、「人生をポジティブに変える」という志向を持った人々だ。

 旅人の質の変化に伴って、日本人が抱くインドという国のイメージも大きく変わった。20年前はオウム真理教事件の後遺症と、サイババブームの余韻もあって、「スピリチュアルな聖地であり、怪しげな国」と見なされていたが、今は「ホットでスパイシーでマインドフルネスな国」という印象になった。

 20年前も今も変わらないのが「インドは治安が悪い」というイメージだ。しかしこれは、いつも言っているように「悪徳業者や詐欺師は旅行者が必ず訪れる大都市と観光地に集中している」という事実から導かれる印象であって、実際のインドの大部分は治安が良いし、安全だということは強調しておきたい。

 

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 インド人はとても親切だし正直だ。過剰なぐらい親切だ。今日も街角のお菓子屋さんで伝統の菓子作りを見学していたら、「これ持って行けよ!」と甘ーいジャレビを山ほど持たせてくれた。

 というわけで「あなたが遭遇した親切なインド人、正直なインド人」のエピソードをツイッターで募集したところ、何十人もの方から返信が寄せられた。インドに対して「何となく怖い」「治安が悪そう」という印象を持っている人は、ぜひこれを読んでほしい。そしてこれが「特別な人による特別なエピソードではない」ということに注目してほしい。インドを旅していると、日常的にこのような親切や心優しい人々に出会うことになる。

 「地球の歩き方」には「こんなひどいインド人に騙された」というトラブル事例がてんこ盛りだが、それは「インド人に親切にされた」なんて事例は耳目を引かないし、旅行者への警告にならないから。実際には「悪い奴」よりも「親切な人」の方が多いのだと知ってほしい。

 

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 インドには悪い人もいるし、親切な人もいる。当たり前だ。でもメディアを通じて伝わる情報はどうしても「悪いインド人」に偏りがちだ。「インドは今日も平和だった」なんて記事にはニュースバリューがない、と思われているからだ。だからこそ僕は伝えたい。「今日、素敵なインド人に会った」ってことを。

 もちろんインドには旅人を遠ざけるネガティブな要素はまだまだ残っている。大気汚染、交通カオス、不衛生な食べ物。挙げ始めるとキリがない。でもそれを上回るポジティブな面もたくさんある。陽気な人々、活気溢れる旧市街、奇想天外な祭りの数々。

 ぜひ旅先を「減点法」ではなく「加点法」で決めてほしい。インドには普通の国には当たり前にあるものがなかったりするけど、普通の国にはないものがたくさんあるから。インドって「いろいろ大変だったけど、また行きたくなる国」だから。

 

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