インドの街を歩いていると「なぜ一人で旅をしているんだ?」と訊かれることがあって、 「一人旅が好きだからだよ」と答えると、 「一人旅なんてつまらない。家族や友達と一緒がいいよ」 「だから僕は一人旅が好きなんだよ」 「なぜだ。家族や友達と一緒が一番だ」 と議論は平行線を辿ることになる。
インド人はまず一人旅なんてしない。家族や友人と一緒にいることを好み、孤独を愛するような奴は変人だと思われる。 それはいいのだが、「価値観は人それぞれでいいじゃん」という個人主義的な考え方にどうしても馴染めない人がいて、「自分の考えこそ正しい」と強硬に押しつけてくるのには閉口する。
インド人は「狭い空間におおぜいの人がぎゅうぎゅうに押し込められている」という状況に慣れているので、超満員の列車や通勤バスや、狭い部屋に10人ぐらいが雑魚寝している環境でも、あまりストレスを感じない。その代わり知人や親類が誰もいない場所に一人でいるということには強い不安を抱くようだ。
だから、僕が何ヶ月も一人で旅していると言うと「おぉ可哀想に。家族も友達もいないのかい?」と変に同情されたり、「うちへ来て、一緒にご飯を食べましょう」と誘ってくれたりする。「家族と仲間が一番大切」で「孤独は敵」という価値観・人生観が、インド人の人なつっこさの根底にある気がする。
僕はもともと人混みが苦手で、インドの列車やバスも超苦手だ。以前、インドの夜行列車の座席指定のない切符で一晩過ごしたことがあって、あれは地獄だった。狭い空間に押し込められて揺られて、自分がジャガイモにでもなった気分だった。だからバイクという開放的な移動手段がなければ、僕がインドという国に深くコミットすることはなかっただろう。
「たった一人で言葉も通じない異国に立っている」という圧倒的な孤独感が、撮影のモチベーションを高めてくれる。「限定されたコミュニケーション環境の中で自分がどこまでやれるのか」という不安と期待とドキドキ感が、見知らぬ他人を撮るときにはプラスに働く。だから僕はいつも一人で旅をしている。
インドでは毎日こんな飾らない笑顔を撮っている。長年の仕事仲間が肩を組んでフレームにおさまる。素敵だなぁ、そう思った瞬間にシャッターを切っている。
インドには笑顔が溢れている。お寺に巡礼に来ていた女性が、沐浴後の濡れたサリーを風に晒して乾かしている。日差しが強烈なので、薄い生地のサリーは十分ほどで乾いてしまう。赤いサリーと紅白の壁。何だかおめでたい。
新年をインドで迎える
インドからハッピー・ニュー・イヤー!今年はねずみ年ということで、インドの白いネズミです。なぜか少女の肩に乗せられて、戸惑っている様子が何ともかわいい。今年もよろしくお願いします!
2020年の年明けはこんな部屋で目覚めた。インド南部アンドラプラデシュ州のなんということのない地方都市の一泊600ルピー(960円)の安宿。インドの安宿には珍しく、窓から外光が差し込んでいた。
インド南部タミルナドゥ州で行われていた宗教儀式に参加。南インドの収穫祭「ポンガル」は毎年1月半ばに行われるのだが、その前祝い的な儀式だそう。「お前も参加せよ」と言われて、額にシヴァ神を示す三本の線を塗られて一緒に記念撮影。タミルの人々はとてもフレンドリーです。
ヒンドゥー歴に従って生きているインド人にとって、1月1日は特別な日ではないが、それでもあちこちで「ハッピー・ニュー・イヤー!」と握手を求められる。町で出会ったケーキ屋の男も「これ食っていけよ!」と売り物のケーキを渡してくれた。インドの甘ったるいケーキが元日のご馳走になった。
新年を迎えたインドの街角で、行商人が2020年度のカレンダーを売っていた。インドのカレンダーって曜日が縦に並ぶ「縦書き」が主流のようだ。横書きに慣れた目には、ちょっと不思議な気がする。