世界一周の最初の訪問地インドで、詐欺グループに騙されて75万円を失った大学生が、手口の全貌を書いている。ジャイプールで親しげに声を掛けてきた男についていったら、警察官役も含めて全員がグルだったという事件だ。胸が痛む。初めてインドを訪れる方は、本当に気をつけてほしい。

 何回でも何十回でも言うけど、インドの観光地や大都市で親しげに近寄ってくる男はガン無視でいい。多くの観光客が訪れる街で、あなたにだけ「ご飯をご馳走」したり「実家に招待」したりする理由があるのか、冷静に考えてほしい。親切なインド人はたくさんいる。でも観光地には少ししかいない。

 日本人がインドで犯罪に巻き込まれる事件が発生すると、「インドは危険!」という大合唱が起きる(実際に今がそんな状態だ)。詐欺事件で大金を失った日本人がいるのは事実だし、インドには外国人を専門に狙う詐欺集団がいるのも事実だが、その事例を13億人が住むインド全体に当てはめて一般化するのはどうかと思う。

 13億人が住んでいるのだ。日本の10倍ですよ。その中で右も左もわからないインド初心者の若者を騙そうと虎視眈々と狙っている詐欺師は、ごくごく一部に過ぎない。多く見積もっても1000人程度だと思う。その1000人を避けることができれば、インドで犯罪に遭う確率は劇的に下がるはずだ。

 問題は、詐欺師たちが外国人がよく訪れる場所に「網を張っている」ことだ。コルカタ、デリー、ジャイプールのような危険地帯では、見知らぬ人から話しかけられてもガン無視を貫く。そして外国人があまり訪れない街では「この人、詐欺師かも」という警戒心を持ちつつ、心の扉を少しずつ開けていけばいい。

【インドにはいい人も悪い人もいる。初心者である自分にはそれを見抜く力はない。だから警戒心と猜疑心はしっかりと持ちながら、いつでも全力で逃げられる姿勢を取りながら、徐々に「本物のインド」に近づこう】
 こういう姿勢で旅に臨めば、大きな犯罪に巻き込まれることはまずないと言っていいだろう。

 正直に言えば、僕はいまだにインドの観光地が苦手だし、観光地を歩くときはビビっている。警戒心のスイッチを切ることはない。でもそのおかげで、インドで犯罪に遭ったことは一度もない。

 僕は「インド人は親切だし、正直だし、優しい」と繰り返し書いていた。「ただし観光地は除く」という括弧付きで。

 本当のインド人の素晴らしさを、多くの人に知って欲しい。でもそのためには旅行者が「観光地というトラップ」に引っかからない術を身に着ける必要がある。厄介だが、とても大切なことだ。

 ジャイプールで詐欺被害に遭った大学生は、確かに無防備で無鉄砲だった。でも、僕には彼の無謀さを笑うことはできない。「自分はそんな目には絶対に遭わない」なんて言い切れる自信はないからだ。

 僕自身の旅を振り返ってみても、いつも危険と隣り合わせだったと思う。常に「もう一歩踏み込む勇気」と「蛮勇」とのあいだに張られた細い一本のロープを渡っていたようなものだ。ひとつ間違えれば、奈落の底に落ちる危険性はあった。思い出すだけで冷たい汗が背中を流れ落ちてくるような経験は何度もあった。

 旅の経験を積むにつれて、トラブルのにおいを嗅ぎ分ける感覚が身についてきたのは事実だ。しかし結局のところ、僕は運が良かっただけなのだと思う。
 自分の危機管理能力を過信しないこと。自分だけは絶対に騙されるはずがない、などとは思わないこと。それが旅先で犯罪に巻き込まれないために一番必要なことなのかもしれない。

 

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