僕にとって8冊目の著作となる『渋イケメンの国』が12月3日に雷鳥社から発売されました。アジア各地で撮影した渋くてカッコいい男たちがテーマの異色の写真集です。
 
・出版元:雷鳥社 ・定価:1728円(税込) ・A5判変型 ・160p
 
ご注文は「たびそら通販部」からどうぞ。新作ポストカード3枚と著者サインも付きます。

 
 

本物の男は無駄にカッコいい

『渋イケメンの国』はアジア各地で撮影した渋くてカッコいい男たちがテーマの写真集です。目力があり、異性にモテることを意識せず、加齢を怖れない。そんな渋イケメンたちの姿は、日本でもてはやされているイケメンとは方向性がまったく違います。
汗くさく、たくましく、全身生きる力をみなぎらせた男たちのパワーを存分に感じて欲しい。そんな一冊を目指しました。
 


 
そのとき僕の心を捉えたのは、男の鋭い眼差しだった。
男は何か特別な仕事をしているわけではなかった。建築資材として使う長い竹を肩に担いで、トラックの荷台に積み込む。これ以上ないほどの単純作業だ。それでも彼は誇らしげに胸を張り、僕が構えたカメラを真正面から見つめた。
「俺は、ここで生きている」
言葉ではなく、強い目力と立ち姿だけで、その揺るぎない事実を伝えているようだった。
 


 
 

渋イケメンは胸を張る

 僕はいつもテーマを決めずに旅をはじめる。どこへ行くのか、何を撮るのか、具体的な予定を一切立てないで、とにかくまず走り出すのだ。小さなバイクのスロットルを回して。
 
 風景が流れていく。雲も流れていく。暗い森を抜け、茶色く濁った川を渡る。灼熱の砂漠を横切り、石ころだらけの山道を登る。ときどき山羊の群れとすれ違う。井戸で水を汲む女たちとすれ違う。街には鍛冶屋が鋼を打つ音や、家具職人がノコギリを引く音が響いている。食堂からケバブの焼ける匂いが漂ってくる。ひと仕事終えた男たちがグラスに入ったチャイを差し出す。「あんたも一杯飲んでいけよ」と。
 
 そうやってあてのない旅を続けていると、自分がいま何を撮るべきなのかが次第にはっきりしてくる。心のアンテナを大きく広げていれば、被写体が「撮ってくれよ」と呼ぶかすかな声が聞こえるのだ。僕がすべきなのは、その呼びかけに素直に応じることだけ。難しくはない。鼓膜をふるわせるさまざまな音の中から「その声」だけを聞き分けられれば、あとは自然に体が動いてくれる。
 

 
 渋いイケメン。どこにでもいるようだけど、そこにしかいない特別な男たち。それが今回の旅のテーマになった。
 
 渋イケメンはいつどこに現れるかわからない。混み合った市場で大声を張り上げていることもあれば、収穫した稲穂を頭に載せて田んぼを歩いていることもある。狭い仕立て屋でミシンを踏んでいることもあれば、リサイクル工場でゴミの山と格闘していることもある。
 
 しかしどんな場所にいようとも、渋イケメンたちの存在感は際立っていた。「いぶし銀」という言葉がふさわしい、鈍い光を放っていたのだ。彼ら自身は外見にほとんど気を遣っていなかった。破れた服をそのまま着ている人もいたし、上半身裸で働く人もいた。それがまたカッコ良かった。自分に与えられた仕事を黙々とこなすうちに必要な筋肉が付き、身のこなしが洗練され、外見に味わいが出てきたのだろう。彼らの肉体には必要なものが必要なだけある機能美が備わっていた。
 

 
 

渋イケメンはモテようとしない

 渋イケメンたちは「異性にモテよう」という意識をまるで持ち合わせていなかった。自分のカッコ良さに気付いてさえいない様子だった。そういう無自覚で無頓着なところも素敵だった。

 実際のところ、インドやバングラデシュに住む男たちにとって、イケメンであることが直接何かの役に立つことはない。いまだに結婚の9割が親同士の決めた「アレンジ婚」であり、婚前交渉はおろか恋愛だって大っぴらにはできないお国柄だから、いくらハンサムであっても、それがパートナー選びに大きく影響することはないのだ。

 

 
 おそらく「何の役にも立たない」というのが重要なポイントなのだと思う。どのような人間的属性もすぐにお金に換算されてしまうような計算高いこの世界にあって、使い道のない無駄なカッコ良さほど贅沢なものはないからだ。

 渋イケメンは他人の目を気にしない。あるがままの姿でそこにいて、それだけで十分に美しい。そのような男前の浪費ぶりが、彼らの存在を特別なものにしていた。

 

 
 

渋イケメンは加齢を恐れない

 年を取ることを恐れない姿勢も、渋イケメンの条件のひとつだ。人が成熟し、老いていくのは逆らいがたい自然の摂理であり、それを静かに受け入れることが人生に深みを与える。男たちの長く伸びた髭や、深く刻み込まれた皺には、そのような生き様が強く反映されていた。彼らが持つ「渋さ」とは、自然に年月を重ねた者だけが身につけられる年輪の厚みなのだ。

 



 

 強い存在感と目力を持ち、自分の外見には無頓着で、年を取ることを恐れない。そんな条件を備えた渋イケメンを見つけると、僕は迷うことなくカメラを向けた。あなたの存在そのものが特別なのだと、カメラを使って伝えたかったのだ。
 
「お、いいねぇ。撮りなよ」
 男たちは少し照れくさそうに、しかしおおらかに胸を張って応じてくれた。
 たとえ言葉は通じなくても大切な瞬間を共有できたという確かな手応えが、そこにはあった。
 


 

「渋イケメンの国」のご注文は「たびそら通販部」からどうぞ。新作ポストカード3枚と著者サインも付きます。